SFマガジン2009年7月号には、伊藤計劃追悼として、執筆途中だった長編『屍者の帝国』の冒頭部分が掲載されたので読んでみました。 舞台は、フランケンシュタイン博士が開発した「屍者に電気的な魂を吹き込んで蘇らせる」という技術が普及した19世紀のロンドン。医学生ジョン・H・ワトソン(後のワトソン博士)は、ヘルシング教授の紹介で英国諜報機関に勤めるマイクロフト・ホームズと出会います。彼から依頼された仕事とは・・・。というところで途切れています。うう、続きが読みたいけどもう決して読めない。 残されたのは冒頭部分のみで、しかも原稿を提出してくれた河出書房の編集者によると「あくまで試し書きであり、完成した作品内には組み込まれない可能性もあった」とのことで、これだけでは長編がどのような作品になったのかは分かりません。 しかし、パンチカードを使用して電気的プログラムを屍者に入力するシーンの力の入れようから
『SFが読みたい!2011年版』においてベストSF2010海外篇第1位に選ばれ、さらに今年の星雲賞をも受賞した歴史SF大作。14世紀ドイツの片田舎に不時着した異星人たちのグループと、中世ヨーロッパ人たちとの出会い。やがて両者の間に生まれる交流と信頼。歴史に残らなかったファーストコンタクトの顛末を通じて、科学と信仰の出会いをえがく感動作です。単行本(東京創元社)出版は2010年10月。 まず何といっても、緻密に、子細に、活き活きと描かれた中世ドイツの存在感が素晴らしい。当時の社会や人々の日常が丁寧に書かれていることで、彼らが異星人と出会い、生活を共にするようになるというフィクションがまったく嘘くさく感じられず、SFというよりまずは重厚な歴史小説として楽しめます。個人的には、『大聖堂』(ケン・フォレット)よりもずっと面白く、読後の満足感も大きかった。 中世ヨーロッパというと、何となく、無知と迷
SFマガジン2010年1月号は「創刊50周年記念特大号PART-I 海外SF篇」ということで、人気の高い海外SF作家たちの作品をごっそり翻訳紹介してくれました。近作12篇に名作再録5篇というボリューム。年末に向けて少しずつ読んでゆくことにします。 今回は、暗い絶望的な未来の姿を描くディストピアSF作品2篇。 パオロ・バチガルピの『第六ポンプ』は、環境汚染による少子化と知能劣化が深刻になっている近未来のニューヨークを舞台に、下水処理場で働く主人公がトラブルに遭遇する話。汚染浄化システムの第六ポンプに異常が生じていることに気づいた主人公は、その修理方法を調べてゆくうちに、社会全体がいつしか絶望的な状況に置かれていることに気づきます。 汚染物質のせいでなかなか子供が生まれず、しかも生まれてくる子供のうちかなりの割合が動物レベルにまで知能が劣化している。問題の解決を先送りしたまま数世代を経た今では
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く