『近世畸人伝』(岩波文庫)という本がある。江戸時代の文人、伴蒿蹊が当時のタンレントや市井の人々のゴシップを集めたものだ。その中に確か、池大雅とその妻、玉蘭のエピソードもあった。ある時、池大雅が大阪へ出かけるといって家を出た。ところが絵筆を置き忘れたので、玉蘭が後を追って手渡すと、池大雅は、『どこの方か存じませぬが、ありがとうございます』とお礼を言い、玉蘭も黙って返礼して分かれたという。洒脱というべきか、超俗というべきか、はたまた典雅というべきか。 さて、京大文学部には、かつて中国文学・史学の大家がそれこそひしめいていた。(と、過去形で言わなければならないのは、個人的には非常に残念なのだが。)その一人、吉川幸次郎(敬称略)は現代の基準からすれば立派にこの畸人伝に仲間入りできる資格を備えている。何しろ、彼が弟子や学生に向かって『君達の国はなっとらん、わしの国では。。。』と言うときの君達というの