今年2009年は太宰治、松本清張、大岡昇平といった有名作家たちの生誕100年にあたり、各地で朗読会や講演会が開かれ、出版キャンペーンが相次いで張られ、関連映画も封切られるなどいつにない賑わいを見せている。これらの作家たちに交じって、やや地味ながら独特の魅力を湛えて同じく生誕100年を迎えているのが中島敦である。中島敦といえば、若い世代には国語の教科書に採り上げられている『山月記』によってその名を憶えている人が多いだろう。年輩の方々では中国古典に取材した『李陵』や『弟子』に感銘を受けたという人が多いと思う。私などは「ツシタラ(物語作者)」スティーヴンスンのサモアでの晩年の日々を描いた『光と風と夢』の爽やかな読後感が忘れがたい。 去る夏の一日、生誕100年を記念して神奈川近代文学館で開催された「中島敦展――ツシタラの夢」に出かけた。同館は横浜の港を見晴らす丘の上にあるが、そこからほど近い横浜高
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