ひとりの個なり、ひとつの時代なり、かつて生きていたものが抱いていた世界像を、忘却から救出するには、どうしたらよいのか。むろん、この問いに答えるしかたはさまざまあるだろう。だが、このような問いの立てかた、問いの形式そのものは、いったいいつ、いかなるかたちで生まれたのであろうか。そして、世界を忘却から救出することによって、ひとは何をしようというのだろうか。 人文学という学問の成立は、この問いと、本質的な関係をもつ。人間が発見し、人間が認識した世界のありようを、文化や時代を隔てて掘り起こし、その真価を再発見する精神の働き。出発点は、人間たちの遺した言葉である。言葉の多くは、書承されたテクストとして、現在に伝わる。テクストは伝承の時間を経て、元の姿が損なわれ、原初の透明さも失われている。それを再建し、復元するためには、テクストの綿密な考証と読みが必要だ。その技術を極限まで研ぎ澄ませたところに、人文
『類聚名義抄』は平安時代末期に編集された、漢字・漢語を部首により集めた音訓漢和辞典で、編者は未詳。原撰本と呼ばれるオリジナルバージョンと、それを改訂増補した改編本の二種があります。原撰本には図書寮本ずしょりょうほんが、改編本には諸本ありますが、今回高精細カラー版で複製刊行された観智院本が、その代表的な写本です。 『類聚名義抄』の成立は、原撰本が平安時代・院政期末期の一一〇〇年頃、改編本は鎌倉時代の一二〇〇年頃と推定されています。そして観智院本が書写されたのは、鎌倉時代末期。つまり、改編本が生まれてからこの観智院本が写されるまでに、それほど時を経ていません。 さらに観智院本の貴重さは、唯一の完本であるということです。図書寮本は全体の六分の一しか残っておらず、改編本系の高山寺本、蓮成院本、西念寺本、宝菩提院本なども、いずれも一部分しか残っていません。 観智院本は完本であるために、収録語数も非常
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