大野 晋 著 岩波現代文庫 国語学者の大野晋氏の7つの論文を集めた論文集。大野さんの本は何年も前に数冊読んでいらい久しぶりである。 1.「語学と文学の間」 上代特殊仮名遣いを初めに発見したのは、いわずと知れた本居宣長である。一方、本居宣長は源氏物語の研究でも有名で注釈を残している。本居宣長は、源氏物語は男と女の恋の感情を書いたものだと考えていた。我々、現代人にとってはそんなことは当たり前のことだし、何も特筆することではないと思っている。しかし、宣長の生きた江戸時代はそうではなかった。当時の社会では、色恋などということは武士や学者がまじめに取り組むものではないと思われており、源氏物語を読む際にも儒教や仏教の書を持って源氏物語と言う作品をあれこれ論評する人が多かったのである。 そういった中で、どうして本居宣長だけが、源氏物語を恋の物語であると正しく認識できたのであろうか?大野晋氏は、当時の武士