はじめに 鬼束ちひろの「月光」という歌は、こんな風に始まる。 I am GOD'S CHILD(私は神の子供) この腐敗した世界に堕とされた How do I live on such a field?(こんな場所でどうやって生きろと言うの?) こんなもののために生まれたんじゃない (『やさしく弾ける 鬼束ちひろ/ピアノコレクション』、ドレミ楽譜出版社、2004(第2刷)、p.13) これこそまさに、今から四半世紀以上前、江川卓のドストエフスキー論(『謎とき『罪と罰』』)が読売文学賞を受賞し大衆の人気を博したとき、私が感じたことだ。こんなドストエフスキー論が通用するような腐敗した世界に生きていたくない。どうか、これが悪い冗談でありますように、と私は願った。ところが、その後、江川は『謎とき『カラマーゾフの兄弟』』、『謎とき『白痴』』という風に、次々と「謎とき」シリーズを出版した。それと同時に