「感染症は実在しない」(参照)とは刺激的なタイトルであり、また前半は修辞的な議論が饒舌に展開するきらいはあるが、内容はいたって正統的な医学的な立場で描かれ、著者の履歴からもわかるように米国標準の臨床も批判的に踏まえている点で、今後の日本の臨床のありかたを展望する内容となっている。日本の医療がどうあるべきかに関心をもつ人には、必読とまでは言えないものの、多くの示唆を得ることができるだろう。また、一般向けに書かれている本ではあるが、実は医療関係者にこっそりウケのよい書籍ではないかとも思えた。 本書での、感染症は実在しないということは、端的に言えば、感染症というのは現象であるということで、細菌やウイルスが実体的に存在しないという話ではない。 興味深い例が書かれている。2009年、日本の社会で新型インフルエンザが流行したとき、通常なら季節型のインフルエンザは終わる時期なのに、報道などではこの年は異