まだ荷物の検査をしなくて大丈夫ですねと彼女は言った。座って待ちましょうと私はこたえた。彼女は彼女の娘に低く甘い声で私にはわからないことばを与えた。 彼女は日本で八年働いて、これから中国に帰る。彼女の娘は七つで、就学に合わせて母親のいる日本に来て、もちろん一緒に帰る。彼女が日本を離れるのは日曜日だと聞いたので、お見送りをしますと私は言った。空港まで行きますよ、いつだったか、日本に来るとき旦那さまがお見送りしてくれてうれしかったって言ってたじゃないですか、日本から戻るときの見送りがあってもいいんじゃないですか。 彼女とは何度か一緒に仕事をした。私は彼女を頼りにしていた。彼女はたいていの場面で大丈夫ですと言ってのけた。そして実際に、大丈夫にした。 彼女は体調が悪そうなそぶりを見せず、定められた期限を過ぎず、声音や表情のつくりかたがおかしくなることがなかった。誰もが彼女を強靱な人として認識していた