新宿のカウンセリングルーム。カウンセラーの男性と私は、会員の小宮省吾(40歳、仮名)が来るのを待っていた。ところが、約束の16時を10分過ぎても、現れなかった。約束に遅れてくるようなタイプではない。携帯に電話したがつながらない。 嫌な予感がした。 「事務所に何か連絡が入っていないか、ちょっと聞いてみます」 カウンセラーにこう告げ、部屋を出てスタッフの女性に連絡をしたが、省吾からは何の連絡も入っていなかった。 私の脳裏に断崖絶壁に1人たたずみ、強風に吹かれながら海を見下ろしている省吾の姿が思い浮かんだ。その脳裏映像が今度は、1人暮らしをしているマンションの1室で、天井にくくられたロープを思いつめた表情でジーッと見つめている省吾の姿に切り替わる。いらない心配だとはわかっていても、嫌なことばかりが思い浮かんできた。 「とにかく連絡して! 待っているからね。何時になってもいいから電話かメールをくだ