もし犬と奮戦して、みずから水中に打ち落としたのであれば、たとい落ちた後から竹竿でめった打ちにしようとも、決して非道ではない。 ------- 話にきくと、勇敢な拳闘士は、すでに地に倒れた敵には決して手を加えぬそうである。 これはまことに吾人の模範とすべきことである。 ただし、それにはもうひとつ条件がいる、と私は思う。 すなわち、敵もまた勇敢な闘士であること、一敗した後は、みずから恥じ悔いて、再び手向かいしないか、あるいは堂々と復讐に立ち向かってくること。 これなら、むろんどちらでも悪くない。 しかるに犬は、この例を当てはめて、対等の敵と見なすことができない。 何となれば、犬は、いかに狂い吠えようとも、実際は「道義」などを絶対に解さぬのだから。 まして、犬は泳ぎができる。 かならず岸へはい上がって、油断していると、まずからだをブルブルッと振って、しずくを人のからだといわず顔といわず一面にはね