「ただ今はここにいる。それでいいんじゃない?」 観終わって、なぜだか「方丈記」の冒頭が頭に浮かんだ。 『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし…』 日差しは暖かいのにまだ肌寒さも残る桜の花咲く頃の京都の何処からしい小さな町内。 豆腐屋を営むハツミ。 喫茶店を営むタカコ。 ウイスキー・バーを営むセツコ。 そこに来るお客たち。 彼女たちも互いの店のお客である。 彼女たちの何気ない日常と会話が淡々と繰り広げられる。 徹頭徹尾、何も起こらないお話。 本当に何一つ起こらない。 とはいえ、実は彼女たちを取り巻く環境は実は少しづつ変わっている。 街を去る青年。 寝ているばかりだった赤ん坊はよちよちと歩くようになり。 訳あってこの街に来て一人で商売を営み、適度な距離感で交流する女性たちも、いつかはここを去るかのような予感を