涙を押し売りせず、適度な笑いを散りばめ、約90分に収める。ウェルメイドなプログラムピクチャー感覚を熟知した新人監督が誕生した。絶望、家族、時の流れ、生の意味――観る者の心に寄り添い、映画的ダイナミズムに対して抜かりない。『異人たちとの夏』的情緒から『素晴らしき哉、人生!』的感動へと昇華させる手腕には舌を巻く。とりわけ1973年の浅草の活気を、長野県上田市に再現したリアリティは特筆もの。 唯一の難点は、物語がありがちなこと。しかし三谷幸喜よりもキャメラのフレームを踏まえていて、山崎貴のように愁嘆場とCGに頼らない。東宝は今後、「映画監督 劇団ひとり」を積極的にプロデュースしていくべきだ。