今はもういない猫の話。 国道17号線にある魚やの刺身のさくは1本四千円くらいする高めのもので、食卓に登場することは希だったけれど、母親が端っこを切って猫にやると美味しそうに食べていた。 食卓への登場頻度が高い、ルミネ地下の魚●の刺身は真ん中の部分を一切れやっても決して食べなかった。 猫は無条件に魚が好きだと思っていたが、うちの猫は選り好みしていた。 そんなある日、父がリストラされた。 いつものように夕食の準備にとりかかった母親が魚●の刺身を一切れ猫の器に入れてやると、猫がくんくんと匂いを嗅いで踵を返した。 そんな猫を母親が抱き上げてこんこんとこう言って聞かせたそうだ。 「お父さんがね、会社を辞めることになったの。もういい年だから、次の就職先はすぐに見つからないと思う。しばらく魚やさんの刺身は食べさせてあげられないのよ...」 それを聞いた猫は母親の腕から降りると、器のところまで行き、刺身を