第33回日本SF大賞(日本SF作家クラブ主催)が8日発表され、大賞には月村了衛さんの小説「機龍警察 自爆条項」(早川書房)と、宮内悠介さんの小説「盤上の夜」(東京創元社)が選ばれた。副賞は各100万円。このほか、亡くなった作家の伊藤計劃(けいかく)さんの絶筆を、円城塔さんが書き継いで完成させた「屍者の帝国」(河出書房新社)に特別賞を贈ることも決まった。
使ったことがあるかは別にして誰もが存在は知っている「ラブホテル」。その通史をまとめた『性愛空間の文化史』を、神戸学院大非常勤講師の金益見さん(33)が出版した。全国のホテルの外観や内部の実情を取り上げた『ラブホテル進化論』の発表から4年ぶりの著作だ。 出合茶屋や連れ込み旅館、ブティックホテル、ラブホテル、最近では縮めて「ラブホ」と表記される日本独自の「性愛空間」のルーツを江戸時代後期までさかのぼった。 かつて使われた「温泉マーク」が、いつからこの空間を意味するようになったのか。城や船という「デラックスな」外観が生まれた背景には何があるのか。図書館で古い新聞や雑誌をめくって証拠を探した。「タダでいいので」と言って、アシスタントとして雑誌の取材に同行して人脈を築いた。北海道から九州まで、各地のホテル関係者にインタビュー。訪れたホテルの部屋は千以上に上る。 「とっておきラブホ」 歌手デビューを目
今私たちが見ている土偶の多くは、当時、意図的に壊されたものなのだそうだ。とりわけ縄文中期以降、紀元前3300年以降の東日本でつくられた土偶の多くはそうなのだという。時には壊したい部分を予(あらかじ)め壊れやすくつくることさえあったというのだからすごい。明確な目的意識に基づき土偶はつくられていたということになる。 それにしても「縄文の女神」のなんと美しいこと。山形県舟形町で出土し、今年9月に国宝に指定されたばかりのそれは、8頭身という、日本人、いや縄文人離れしたプロポーションをしており、「女神」の名にふさわしい。だが、ちょっと気になることがある。 現在国宝に指定されている土偶は「縄文のビーナス」「中空土偶」「合掌土偶」そして「縄文の女神」の4点のみである。本書で見ていて気づいたのは、頭の飾りと腕とが失われている「中空土偶」をのぞき、どれもほぼ完全な形を保っていることだ。その事実から、つい、土
踊ってはいけない国、日本 風営法問題と過剰規制される社会 著者:磯部 涼 出版社:河出書房新社 ジャンル:社会・時事・政治・行政 「無許可で客を踊らせ」た罪で摘発されるクラブ、違法ダウンロード刑罰化、生活保護受給バッシング、レバ刺し禁止、消えゆく歓楽街…。誰が誰の首を絞めているのか? 過剰規制されゆ… 踊ってはいけない国、日本 風営法問題と過剰規制される社会 [編著]磯部涼 一般に風営法と呼ばれる法律によって、特にここ数年、大阪を中心としてクラブが摘発され続けている。主に若者を顧客として持ち、DJによる大音響での音楽再生によって踊りを楽しむ方のクラブだ。 これまでも“午前零時、条例によっては午前一時を過ぎて客を踊らせていた”罪での摘発はあったが、運用は比較的穏やかだった。それが今、どういうわけか一気に厳格化されつつある。 なぜ踊ってはいけないか。法の運用に恣意(しい)性はないか。表現の自由
奇貨 [著]松浦理英子 寡作の著者の五年ぶりの小説がやっぱり面白い。 中年男と三十代の女が同居して三年になる。だが、男・本田は女性自体に強い性欲を抱かず、糖尿病によって勃起も十全でない。一方の七島美野はレズビアンで、同僚の寒咲晴香を恨んでいる。中途半端にその世界に興味を持っただけで自分と性交し、以後無視を決め込むからだ。 ここで著者をデビュー以来彩る“性嗜好(しこう)の多様なありよう”についてのみ語れば、作品の面白みを閉じてしまう。 むしろ今回のテーマが“恨み”であることは冒頭から明快である。本田と七島は恨みという負の感情を肯定して意気投合し、暮らすに至る。本田にとって、七島の感情を追体験することが刺激であり、生き甲斐(がい)となっていく。 七島の恨みの理由もまた明快だ。「うすらぼんやりとした欲求にまかせて他人を慰みものにしちゃいけない」と彼女はいう。倫理的である。 その七島の前に同じレズ
ヤマザキマリ(マンガ家) 67年生まれ。「テルマエ・ロマエ」で手塚治虫文化賞短編賞、マンガ大賞2010。近刊に『ジャコモ・フォスカリ 1』。 ■無機質の向こうから生の声 『方舟さくら丸』 著・安部公房(新潮文庫・620円) 日本ではまだ殆(ほとん)どの作家達(たち)が手書きで原稿を手がけるのが当たり前の時代に、安部公房は当時市場に出たばかりのワードプロセッサーを導入して作品を執筆する様(よう)になった。情緒的表現を排した安部公房の無機質でシニックな文体は、恐らくこの機械と心地良くマッチングしたのだろう。とあるテレビ番組で氏が自分の仕事場に設置されたシンセサイザーと共に、当時まだ巨大で物々しい様子だったワープロについて意気揚々と説明しているのを見た事がある。 かつて留学先のイタリアで貧窮状態に陥っていた頃、私は胃袋を満たせない代わりに安部公房の作品を貪(むさぼ)るように読んだ。安部作品を読
メインストリーム 文化とメディアの世界戦争 著者:フレデリック・マルテル 出版社:岩波書店 ジャンル:社会・時事・政治・行政 メインストリーム 文化とメディアの世界戦争 [著]フレデリック・マルテル 低迷を続ける政治や経済を横目に、マンガ・アニメからファッション、料理まで、日本文化はこの10年で影響力を飛躍させた。 しかし、市場の細分化と国際競争が進むなか、10年後には日本を取り巻く文化の地政学が激変している可能性も少なくない。 世界の文化の潮流はどこに向かっているのか。日本の強さと弱さとは。巨視的な視点から考えさせてくれる力作が現れた。 著者はフランスの元・文化外交担当官。世界30カ国を訪れ、ボリウッドからアルジャジーラ、韓流ドラマ、Jポップまで、1200人以上の関係者を取材した。 見えてきたのは米文化のしなやかな底力と、その覇権に挑むアジアやアラブ、中南米の国々のしたたかな世界戦略だ。
大川周明アジア独立の夢 志を継いだ青年たちの物語 (平凡社新書) 著者:玉居子 精宏 出版社:平凡社 ジャンル:新書・選書・ブックレット 大川周明 アジア独立の夢―志を継いだ青年たちの物語 [著]玉居子精宏 アジア主義者であり、革命家だった大川周明。彼は5・15事件に関与し、獄中生活を送った。そして出所後の1938年、東亜経済調査局附属(ふぞく)研究所(通称、大川塾)を設立し、教育活動を開始する。ここで学んだ若者たちは、卒業後アジア各地に渡り、戦争の裏面や独立運動の展開に関与した。本書は、その若者たちの足跡を追う。 大川は人材育成にこだわった。日本がアジアと共に生きるためには、現地の言葉が出来なければならない。大川塾では、アジア主義の教示と共に、徹底した語学教育がなされた。 学生はすべて寄宿生活。学費は無料で、小遣いまで支給された。大川には子供がいなかった。そのため、学生たちを殊のほか可愛
LOVE&SYSTEMS [著]中島たい子 少子化と労働力不足の問題を解決するために、各国が極端な結婚政策を採り始めた、という設定の近未来小説。結婚制度そのものをなくしてしまって自由恋愛を認め、子どもは国の教育施設でまとめて育てるというF国。国の決めた相手としか結婚できず、女性には社会進出の道が与えられていないN国。移民に頼り、結婚する人が極端に減ってしまった国や、幸福度ナンバーワンを謳(うた)う幻の小国など、どこかで聞いたような気もするさまざまな国での人々の生き方が、明るいタッチで描かれている。 恋愛という、もっとも個人的なはずの営みが、システムにがんじがらめにされ、自由な思考や決断も妨げられてしまう。恐ろしい話だが、近未来に限らず過去や現在にも、こうしたことは多々あるのではないだろうか。 愛をめぐる制度について、小説の結末のロマンチックラブ(幻想?)をどう考えるかも含め、友人との議論の
中国と茶碗と日本と [著]彭丹 著者は着物を着て茶をたて、能を舞い、幸田露伴を読み、寺に出入りし、そして日本語で小説も書く日本学者だ。欧米人の日本学者には、伝統文化に身体ごと入り込んでゆく人々が多いが、アジアの日本学者では、ごく少数派である。 本書は茶の湯の陶磁器を素材にしているが、専門家しか分からない類の専門書ではない。著者が茶の湯の体験のなかで驚き、感動し、謎に思ったそのひとつひとつを解明しようとしている。その目の付け所と解明の方法が、ただごとではない。 日本の国宝になっている陶磁器は十四点あるが、そのなかの半数以上が中国製だという。茶の湯の茶碗(ちゃわん)は八点だが、そのうち五点は中国のものなのだ。そこで著者は謎を抱える。なぜ外国製のものが国宝になるのだろうか、と。ちなみに、現存する曜変天目茶碗三点はすべて日本にあり、中国では全く知られていない。 中国では曜変(窯変〈ようへん〉)天目
アナーキストの大杉栄らが思想文芸誌「近代思想」を発刊して今年で100年。その雑誌巻頭を飾った挿絵の作者は、実は日本最初のアニメーション作家だった――。来月、東京で開かれる「大杉栄と仲間たち――『近代思想』創刊100年記念集会」で、こんな発表が行われる。 研究をまとめたのは、日本学術振興会特別研究員の足立元さん(日本近現代美術史)。挿絵は1912年の発刊時から「近代思想」を毎号飾っていたもので、乱れた髪の労働者が手の鎖を引きちぎろうとしている図柄だ。 この作者については、発行人の荒畑寒村が「幸内(こううち)純一という青年」と60年代に述懐したことから名は判明していたが、研究ジャンルが異なることもあり、同名の漫画家・アニメーション作家と結びつける人はあまりいなかった。 幸内は1886年生まれ。1917年に日本初とされるアニメーションの一つ「なまくら刀」を作った後は新聞社の漫画記者となり、政治漫
難破船や水没した都市などの発掘調査をする「水中考古学」。まだ歴史の浅いこの学問の魅力を広く知ってもらおうと、茨城県大洗町に住む水中考古学者、井上たかひこさん(69)が、基本からわかるテキスト「水中考古学のABC」(成山堂書店)を出版した。 井上さんは日立市出身。海を遊び場に育ち、海洋冒険小説の「宝島」に心をときめかせる少年だった。大学卒業後はサラリーマン生活を送っていたが、40代半ばで水中考古学の本に出会い、留学を決意。米国で「水中考古学の父」とよばれるジョージ・バス氏に師事した。地中海の難破船やジャマイカの海底都市などの調査にも加わった。 日本でも元寇船発掘に参加。茨城大非常勤講師などを務め、今は千葉県勝浦市沖で戊辰戦争のときに沈んだ米国の蒸気船「ハーマン号」の調査に取り組んでいる。 水中考古学は、最近になって東京海洋大学や東海大学に講座が開かれ、日本でも学べる環境が出来てきた。しかし、
装丁やレイアウト、デザインの美しさを競って選ばれた2011年度の「世界で最も美しい本」が、印刷博物館(東京都文京区)で2012年2月19日(日)まで展示されている。展示本は手にとって鑑賞することができる。 【「世界のブックデザイン2010-2011」の展示を写真特集で】 「世界で最も美しい本」コンテストは、毎年2月にドイツ・ライプツィヒで開かれ、今年は32カ国596点の出品があった。20年続いている老舗コンクールで、各国のブックデザインコンテストで振るいにかけられた本が集った。「世界のブックデザイン2010-2011」では、入賞した12点が展示されている。 「金の活字賞」は、オランダの『イスラエル・パレスチナ紛争地図帳』が受賞した。複雑な政治問題を、独創的なデザインのポケット版地図帳にまとめた。詳細に描かれた図版は、ドキュメンタリー写真や百科事典的な説明と同じぐらい興味をそそられるという点
「世界幻想文学大系」など重厚なシリーズものを刊行し続け、不況の出版界にあって異彩を放つ国書刊行会が、創業から40周年を迎えた。全国各地の書店でフェアを開催、記念出版などを行っている。 フェアは今月、全国約70書店で開催。円城塔や皆川博子、佐野史郎ら61人があげた「国書刊行会の好きな本」が並ぶ。国書刊行会といえば箱入りや金箔(きんぱく)使いなど豪華な造本・装丁も魅力で、迫力ある一角が各店に出現。61人のコメントを集めた小冊子「私が選ぶ国書刊行会の3冊」も無料で配布している。 40周年記念で「新編 バベルの図書館」シリーズの刊行も始まった。アルゼンチンの文豪ボルヘスが個人で編集した世界文学全集で、20年前に全30巻で出たが、あらたに国・地域別に編み直して全6巻で刊行。8月から隔月刊の予定だ。 学術資料書籍の復刻出版を目的に設立。文学から思想、宗教、芸術全般、絵本まで幅広く、影響を受けた作家も少
たった1人で出版社を営む。元フリーター、36歳。自らが惚(ほ)れこんだ、埋もれた作品の復刊が主だ。夏葉社の島田潤一郎さんは、営業だって自分の足で全国を飛び回る。吉祥寺(武蔵野市)で起業して丸3年。一歩ずつ、そしてしっかりと愛好家の心をつかんでいる。 島田さんが読書にのめり込んだのは、大学生のころ。卒業後は小説家を志し、アルバイトを転々としたほどだ。ただ、一読者として、新刊は洪水のように出版されるのに、読み継ぐべき本がどんどん絶版になっていく現状を憂えていた。 32歳のときに職を探すも、50社受けて全滅。親友だったいとこが急死したことも重なり、何かが吹っ切れた。「自分でいい本をつくって、多くの人に届ければいい」。自らの貯金をもとに2009年9月、夏葉社を立ち上げた。 出版や編集の経験はもちろんゼロ。吉祥寺を選んだのは、書店が多く、よく遊びにきていた街だったから。駅前に借りた6畳のワンルームマ
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