俺は床屋というものが苦手だ。 高校1年の晩春、初めて美容院なるものの予約をとった時に、 「カットだけでよろしいですか?」 などと聞かれ動揺してしまったのを覚えている。 というか他にどんなコースがあるのか未だに知らない。 続けて 「ご指名はございますか?」 なんて聞かれてますます美容院が分からなくなった。 ホストクラブと勘違いして思わず 「星空ヒカル君をお願いします。」 なんて答えてしまったほどだ。嘘だ。 そんなシステムに馴染みの無い俺にはそれほど未知の世界だった。 散髪中の美容師さんとの会話もどうにも好きになれない。 全然知らない人とお喋りをするのは平気だが、床屋での会話はどうもやりづらい。 「そんな事より散髪に集中してくれよ。」 と思うのもあるし、美容師さんの視線も気になって気持ち悪い。 会話中でも美容師さんの視線は髪へ向いている。 わざわざ視線を合わさないで良い会話もあるのだが、それは