弱年の頃、スタンダールを識ったことがきっかけで、フランス文学の 研究者になろうと志したことがあった。もともと本を読むことは嫌いで はなかったから、ある女友達が私の16歳の誕生日にスタンダールの『赤 と黒』をくれたとき、私は貪るようにしてそれを読んだ。そして深い感 動を味わったのを今でもはっきりとおぼえている。その女友達とはそれ から一年もしないうちに別れたが、一方私の内部では、スタンダールへ の熱い想いはいよいよ募っていった。その後、私が迂遠な道筋を歩んで こなければならなかったのも、偏にその女友達とスタンダールの所為で あったけれども、今となってはそれも懐かしい想い出である。 さて、そのスタンダールであるが、その筆名はドイツの小都会の名に 由来すると言われている。ベルリンから百キロメートルあまり西に行っ たところにあるシュテンダルがそれらしい。しかし、スタンダール自