タグ

ブックマーク / blog.goo.ne.jp/ego_dance (75)

  • 黄色い雨 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『黄色い雨』 フリオ・リャマサーレス   ☆☆☆☆☆ ちょっと前に読了。久々の大当たり。私のツボにどんぴしゃりきました。最高。 読む前は、淡々とした文章によって綴られるエッセー的な小説を予想していた。物語性はあんまりないような。たとえばヨシフ・ブロツキーの『ヴェネツィア―水の迷宮の夢』のような。ところが読んでみると、そういう部分もありながら、マルケス的な強靭で骨太な物語性をも備えた小説だった。 人がいなくなり、ただ朽ちていくだけの村に残された一人の男の独白、というスタイルの小説だ。タイトルの「黄色い雨」とはポプラの枯れ葉のこと。ポプラの枯れ葉が降りしきり、すべてを覆っていく、それが村の崩壊の象徴的なイメージとなる。美しい。小説全体をこの詩的なイメージ、孤独の中に朽ち果て、滅んでいく、哀しくも甘美なイメージが包んでいる。「私」の回想という形式のため、すべてが遠い過去に起きたことという独特の感

    黄色い雨 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/15
    "訳者は「フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』も『黄色い雨』から受けたほど大きな衝撃と感動をもたらしてはくれなかった」と書いているが、個人的には『ペドロ・パラモ』を越える小説ってほとんど考えられない"
  • 狼たちの月 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『狼たちの月』 フリオ・リャマサーレス   ☆☆☆☆☆ 『黄色い雨』で私のフェイバリット作家となったリャマサーレスの新訳が出たので速攻で購入。ただちに読み始め、電光石火で読了。ああ、やはりこの作家は正解だった。祈りのように静謐な文体、全篇を覆う瞑想性と透明なメランコリー。まるでホアン・ルルフォとアントニオ・タブッキをミックスしたような極上の読書体験である。 今回もやはり断章形式だが、『黄色い雨』よりそれぞれの章が長い。こちらの方が昔の長編らしいがそのせいだろうか。文体は現在形。スペイン内戦で敗走し、故郷の山に逃げ込んだ兵士4人の運命を描く物語。敵側の警備隊が目を光らせているので、何年たっても山から下りてくることができない。たまに警備隊の目を盗んで家族に会いに来る程度である。そしてこの極限状況の中で、彼らは一人また一人と減っていく。なんという哀切かつ劇的なプロットだろうか。シンプルでものす

    狼たちの月 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/15
    "まるでホアン・ルルフォとアントニオ・タブッキをミックスしたような極上の読書体験である"
  • 戦争と平和 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    戦争と平和』 トルストイ   ☆☆☆☆☆ 岩波文庫版で再読。最近の岩波版『戦争と平和』は改訳され、字が大きくなり、コラムなんかがついているらしいが、私のは古いやつである。全四巻に小さい字がみっちり詰まっている。大長編だ。読み通すのは相当時間がかかる。が、文句なく面白い。そして深い。世紀の文豪トルストイの代表作と言われるだけのことはある。これはやはり大傑作と言わなければならない。 話が複雑すぎて要約は不可能だが、要するに19世紀初頭ナポレオンのロシア侵攻という歴史的大事件を背景にした一大ロマンである。中心となる人物はアンドレイ公爵、ピエール、そしてナターシャの三人だが、それ以外にもナターシャの兄ニコライ、いとこのボリース、同居人ソーニャ、アンドレイの妹マリア、その父、ピエールの淫蕩な美人エレン、美貌の遊蕩児アナトーリ、無頼漢ドーロホフ、そしてもちろんナポレオンやロシアの将軍クトゥーゾフな

    戦争と平和 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • ナイフ投げ師 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『ナイフ投げ師』 スティーヴン・ミルハウザー   ☆☆☆☆☆ ミルハウザーの新刊をようやく入手。一時は諦めかけた。Amazonで発売のとたんに在庫切れになってしまうのは、あれは一体どういうことだろうか? まあとにかく、入手できて良かった。12篇の短篇が収録されている。私の大好きな前作『三つの小さな王国』は濃厚な中篇集だったが、書はまたバラエティ豊かで違った意味で濃厚なミルハウザーが味わえる。『イン・ザ・ペニー・アーケード』や『バーナム博物館』もいい短編集だったが、この『ナイフ投げ師』はそれらにもましていかにもミルハウザー的な短篇が揃っているような気がする。ミルハウザーは常にミルハウザーでしかない小説を書くが、それにくわえて『イン・ザ・ペニー・アーケード』では清新な抒情性、『バーナム博物館』では奔放な実験精神が印象的だった。そういう意味でいうと書は、さらに熟成した濃縮ミルハウザーの詰め合

    ナイフ投げ師 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 存在の耐えられない軽さ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ   ☆☆☆☆☆ クンデラの代表作を再読。昔ハードカバーで持っていたがなくしたので文庫を買った。やはり素晴らしい。なかなか新作が出ないが、もう小説は書かないのだろうか? 大好きな作家なので大変寂しい。 書は映画化されたので知っている人も多いだろうが、映画を観てもこの小説の真価はまったく分からないと言っていい。まあそれはどんな映画化作品にも多少は言えることだが、クンデラの場合は意味合いが違う。この人の小説の主要素はストーリーではないのである。では何か? クンデラの小説的思考である。 小説的思考とはクンデラがエッセーの中で使っている言葉で、抽象的な形而上学的思考や哲学とは異なり、特定の人物の特定の状況の中からのみ生まれてくる思考であり、テーマであり、問いかけということになる。この人はとにかくクラシック音楽、哲学、そしてもちろん文学の素養を満々とたた

    存在の耐えられない軽さ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 別れのワルツ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『別れのワルツ』 ミラン・クンデラ   ☆☆☆☆☆ クンデラの『別れのワルツ』を久しぶりに再読。やはり面白い。これこそ読書の愉悦。 書はクンデラの他の作品、たとえば『不滅』や『存在の耐えられない軽さ』とはだいぶ感触が違う。クンデラ自身の説明によれば、「完全に均質で、逸脱がなく、唯一の手法で構成され、同一のテンポで語られる。これはヴォードヴィルの形式にのっとり、きわめて演劇的で、様式化されている」作品である。クンデラ作品になじみがない人のために補足すると、クンデラの小説は大抵の場合ストーリーと哲学的エッセーがミックスされていて、時系列も前後したり一気に進んだりする。エッセーとはもちろんクンデラ自身のエッセーで、堂々と「私」=クンデラが出てきて、「キッチュ」や「重さと軽さ」といったテーマを論じたり、登場人物の行動を補足説明したりする。筒井康隆のように作者と作中人物が出会ったりもする。脱線があ

    別れのワルツ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 唐草物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『唐草物語』 澁澤龍彦   ☆☆☆☆☆ 再読。もう何回読んでいるか分からない。写真は文庫のだが、私が持っているのは函に入った単行である。函には幾何学的な唐草模様があしらってあり、を取り出すと赤茶色の渋いハードカバーで重厚な感じだ。やはり澁澤龍彦のはこういう方が似合う。この固い表紙に挟まれた『唐草物語』をぱらぱらめくっていると読書がひときわ愉しく思えてくる。 澁澤龍彦の短篇集はどれも素晴らしくて甲乙つけがたいが、あえて一冊選ぶとしたら私はこの『唐草物語』を選ぶと思う。テキストの自由度が一番高く、小説として破格なところがひときわ魅力的だからだ。この次の作品集である『ねむり姫』はそれぞれの短篇がより「物語」という感じで、ストーリーに展開があるが、書収録の短篇は起承転結のようなものがまるでない。半分ぐらいはエッセーで、その中にぽつんと放り出すようにシンプルなエピソードがある。物語というには

    唐草物語 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • ダマセーノ・モンテイロの失われた首 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆ 『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』に続いてタブッキを再読、またしても評価上がる。この『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』は以前に『供述によるとペレイラは……』のレビューの中で、最後に人にすすめるタブッキとしていたが、考え直したくなってきた。タブッキのはこうやって、読み返すたびに新たな発見があるので油断できない。一度読んだだけで魅力を汲みつくすことができないのである。もちろん、だからこそ優秀な文学なのだが。などと言って自分のうかつさを正当化する私。 書がこれまででもっとも「非タブッキ的」小説であることは間違いない。それは翻訳者もあとがきで指摘しているし、最初の1ページを読めばすぐ分かる。テーマが政治的というだけでなく文体が違う。従来の曖昧さをたたえた、どこかためらうような瞑想的な文体から、より明晰な、くっ

    ダマセーノ・モンテイロの失われた首 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • ベアト・アンジェリコの翼あるもの - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆ 偏愛するタブッキの短編集を再読。最初に読んだ時はわけわからない作品が多いなという印象を受けたが、久々に読み返してみて私の中で評価が上がった。断片性を特徴とするタブッキの作品の中でも、特に断片性の強いものが多く収録されている。 表題作『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』は、訳者があとがきで書いている通り、タブッキの数ある短篇の中でも珠玉の一篇である。修道院の僧グィドリーノのもとをある6月の夕べに訪れる、小さなばら色の「翼あるもの」たち。彼らは一種の巡礼であり、とんぼのような華奢な翼と体、そして人間の顔を持っている。その中の一羽はグィドリーノの思い出の少女、ネリーナそっくりの顔立ちをしている。グィドリーノ、のちのフラ・アンジェリコは彼らの姿を修道院の壁に描き、翼あるものたちは飛び去る。ただそれだけの話なのだけれども、こ

    ベアト・アンジェリコの翼あるもの - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • レクイエム - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『レクイエム』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆ 最近タブッキを再読しているが、読み返すたびに魅惑を増していく作品の数々は当に素晴らしい。この『レクイエム』は、『インド夜想曲』『遠い水平線』と同系統のいわばクラシック・タブッキである。今回の舞台は7月のリスボン。夏の盛りのある日、「わたし」は町をさまよい、実在の人々や、記憶の中から蘇った死者達とめぐり合い、会話を交わす。プロットは基的にこれだけである。最後に「詩人」との約束というメインイベントが控えているが、それも事をしながら淡々と会話を交わすだけで、別に筋が盛り上がったりするわけではない。書には「ある幻覚」と副題がついているが、「わたし」が記憶の中の人々とただ順番に出会っていくというシンプルな設定、これが書の魅力の源泉であり、コロンブスの卵のようなタブッキ魔術の秘密である。タブッキは筋で読者をひきつけようとはせず、魅力的な

    レクイエム - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • ティファニーで朝食を - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『ティファニーで朝を』 トルーマン・カポーティ   ☆☆☆☆☆ 村上春樹訳の『ティファニーで朝を』を読了。というかそもそもこの小説自体未読だったので、色んな意味で面白かった。 まず、とにかく文章が美しい。文章の美しさだけでいうと『グレート・ギャツビー』より上かも知れない。さすがカポーティ、村上春樹やノーマン・メイラーが絶賛するだけのことはある。が、私はカポーティの短編集(日語訳)は前に読んだことあるがこうまで美しく感じなかったので、やはり村上春樹の訳業の素晴らしさもあるのだろう。カポーティ+村上春樹のコラボレーションによる小説世界は端整かつ優美、流麗、シックで、洗練のきわみだ。 作品の内容もこの文章にマッチした、はかない、虹色のガラス細工を思わせる物語である。イノセンスの喪失。村上春樹が紹介する作家はカーヴァーにしろフィッツジェラルドにしろみんなそれぞれに「イノセンスの喪失」を扱う作

    ティファニーで朝食を - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 『冷血』 トルーマン・カポーティ - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『冷血』 トルーマン・カポーティ   ☆☆☆☆☆ 名作の誉れ高いカポーティの『冷血』を読了。『ティファニーで朝を』を読んで感動したのでこっちにも手を伸ばしてみた。 実際に起きた殺人事件を緻密に取材して書かれたノンフィクション・ノヴェルなわけだが、まずはこのリーダビリティの高さに驚いた。先が気になってを置けなくなってしまう。そこいらの娯楽小説よりよっぽど面白い。面白いなんていうと不謹慎だと叱られそうだが、小説として確かに面白いのである。 まずは被害者一家の描写から始まり、殺人犯コンビの行動と丁寧に交錯させながら事件当日へと進んでいく。この被害者・犯人の描写の交錯がとてもスリリングだ。そして待ち受ける運命を知らないクラッター一家の、どこにでもありそうな家庭の日常描写が悲劇性を高めていく。特に一家の三女ナンシーがよくできたかわいい娘で、読んでいてどうにも辛い。カポーティの筆は実に丁寧で、頼む

    『冷血』 トルーマン・カポーティ - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 『アルゴールの城にて』 ジュリアン・グラック - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『アルゴールの城にて』 ジュリアン・グラック   ☆☆☆☆☆ 先週読了。『シルトの海岸』がなかなか良かったので、これも読んでみた。作はシュルレアリスムの重要な作品と位置づけられているらしい。 『シルトの海岸』もそうだったが、この人はとにかく文章に特徴がある。息の長い、曲がりくねった、暗喩に満ちた、婉曲で曖昧な文章である。じゃ難解で読みにくいかというとそうでもなく、一種独特のリズムがあり、そのスローなリズムに乗ると実は結構読みやすい。回りくどい、抽象的な比喩も、あまり深く考えずイメージを追うつもりで読めばよい。そのうちこの曲がりくねった長い文章が快感になってくる。麻薬的な魅力のある文章を書く作家だ。 この下ネタばれあり。(ただ、ネタばれしたからと言って楽しめなくなる小説ではない) ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ どういうストーリーかまったく予備知識がなかったので、わりと丁寧に筋を追

    『アルゴールの城にて』 ジュリアン・グラック - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • シルトの岸辺 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『シルトの岸辺』 ジュリアン・グラック   ☆☆☆☆★ 『アルゴールの城にて』がとても良かったので、再読してみた。『アルゴール』よりこちらの方がよりプロットに起伏がある。私としては神秘と象徴のカタマリのような『アルゴール』の純度の高さに軍配を上げたい気分だが、物語としての体裁がより整っていて、大勢の読者にアピールするのはこちらかも知れない。しかし基的に甲乙はつけがたい。小説世界の雰囲気というか肌触りもまったく同質であって、深遠なる宿命と神秘の世界にどっぷりと浸ることができる。 ストーリーを単純に言うと、かつて栄華を誇りいまは衰退の道を歩むオルセンナ共和国と、シルト海を隔てた異教国家ファルゲスタンは三百年の間戦争状態にあるが、もはや戦争とは名ばかりで戦闘もなく、ただ海を隔てて対峙しあっているだけである。そういう名目ばかりの前線にある鎮守府に物語の語り手アルドーが赴任する。沈滞した城砦の中で

    シルトの岸辺 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/14
    "印象としてはカフカとポーの結婚、という感じだが、ポー色の方が強い。不条理文学というより神秘主義、象徴主義的小説"
  • 薔薇の名前(上・下) - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコ   ☆☆☆☆☆ 再読。もう何度読み返したか分からないが、周期的にこの雰囲気に浸りたくなっては読み返すということを繰り返している。色んな意味で、これほど読書の愉悦を感じさせてくれる書物も珍しいと思う。 まず、これはミステリである。フランチェスコ会の修道士バスカヴィルのウィリアムと見習修道士のアドソ、この師弟二人があるイタリアの僧院を訪れ、そこで繰り広げられる連続殺人の謎に挑むという、どこからどう見ても堂々たる王道ミステリ文学だ。書物全体はアドソの手記という形だが、そもそもイギリス人であるウィリアムがシャーロック・ホームズであることは「バスカヴィル」の呼び名からも明らかで、アドソはもちろんワトソンのもじりだ。ウィリアムが登場早々、僧院から逃げ出した馬の行方を言い当ててみんなを驚かせる、なんて場面は、ホームズもの以来綿々と続く名探偵の定石ど真ん中を堂々と見せて

    薔薇の名前(上・下) - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/14
    "もう何度読み返したか分からないが、周期的にこの雰囲気に浸りたくなっては読み返すということを繰り返している。色んな意味で、これほど読書の愉悦を感じさせてくれる書物も珍しいと思う"
  • 澁澤龍彦翻訳全集〈12〉 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『澁澤龍彦翻訳全集〈12〉』 渋澤龍彦・訳   ☆☆☆☆☆ 非常に高価なだが、涙をのんで購入した。収録されているマンディアルグ『大理石』とシュペルヴィエル『ひとさらい』が絶版になっていてどうしても手に入らないからだ。収録作品を以下に記載しておく。 『ひとさらい』ジュール・シュペルヴィエル 『大理石』アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグ 『マゾヒストたち』ロラン・トポール 『パイプ』フランシス・ジャム(補遺) 『ルイス・キャロル』アンドレ・ブルトン(補遺) トポールの『マゾヒストたち』はステルンベールの『前口上』を除けばイラストなので、つまり『ひとさらい』と『大理石』が書のメイン・ディッシュなわけだ。『ひとさらい』もまあまあ悪くなかったが、『大理石』はため息が出るほど素晴らしかった。渋澤龍彦は自身のフランス幻想文学十篇の中にこの『大理石』を上げ、「マンディアルグ作品はずいぶん多く訳され

    澁澤龍彦翻訳全集〈12〉 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/14
    "収録されているマンディアルグ『大理石』とシュペルヴィエル『ひとさらい』が絶版"
  • 燠火 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『燠火』 アンドレ・ピエール・ド マンディアルグ   ☆☆☆☆☆ 『澁澤龍彦翻訳全集<12>』収録の『大理石』を再読してマンディアルグを読みたくなり再読(ちなみに写真と違って私が持っているのは白水uブックスである)。『黒い美術館』『狼の太陽』に続く第三短編集で、収録作は以下の通り。 「燠火」 「ロドギューヌ」 「石の女」 「曇った鏡」 「裸婦と棺桶」 「ダイヤモンド」 「幼児性」 「ダイヤモンド」は渋澤龍彦の「犬狼都市」の原典として有名である。というかほとんど同じで、翻案というか渋澤一流のとぼけた「焼き直し」なのだけれども、その原典として選ばれた「ダイヤモンド」が傑作であることは言うまでもない。訳は生田耕作。生田耕作もあとがきで「作者自身<もっとも気に入っている会心作>と公言する『ダイヤモンド』『幼児性』の二篇をはじめ、その他の収録作もすべて見事なまでの珠玉品揃いであり……」と書を絶賛し

    燠火 - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/14
    "「ダイヤモンド」は渋澤龍彦「犬狼都市」の原典" "作者自身<もっとも気に入っている会心作>と公言する『ダイヤモンド』『幼児性』の二篇"
  • 不死の人 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『不死の人』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス   ☆☆☆☆☆ ボルヘスといえば『伝奇集』が有名だが、この『不死の人』もそれに劣らず素晴らしい。『不死の人』で始まり『アレフ』に終わるという、強力な二傑作にサンドイッチされた体裁の短編集である。全体の印象としては『伝奇集』よりも物語性が強い。どの短篇にも何かしらのストーリーがある。 篠田一士が『二十世紀の十大小説』の中でボルヘスの『伝奇集』を取り上げ、短編集全体の出来なら『伝奇集』だろうが短篇一つを選べといわれたら『不死の人』を選ぶ、と書いていたが、冒頭の『不死の人』は確かに見事だ。ボルヘス自身も短いエピローグで「もっとも入念に手をかけた」と書いている。不死の人々を探し、やがて自分も不死の運命となったローマの司令官の物語だが、主人公が不死の人々の住む都を求めて遍歴する過程などかなり緻密に、丁寧に描かれている。前半は物語風、後半は形而上学エッセー気味に

    不死の人 - アブソリュート・エゴ・レビュー
  • 供述によるとペレイラは…… - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『供述によるとペレイラは……』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆ アントニオ・タブッキは『インド夜想曲』とこの『ペレイラ』が最も良いと思う。僅差の次点が『レクイエム』と『島とクジラと女をめぐる断片』、第三グループが『逆さまゲーム』『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』『黒い天使』『フェルナンド・ペソア最後の三日間』などの短篇集(及び中篇)の数々、そして『遠い水平線』『夢の中の夢』『ダマセーノ・モンテイロの失われた首』と続く。タブッキを何から読んだらよいかと聞かれたら私はこの順番に勧める。 しかしタブッキの作品はどれもこれも高レベルなので、どれを読んでも間違いはない。『ダマセーノ・モンテイロ』を除いて、作品の印象も非常に似通っている。そういう素晴らしい作家のベストであるからには、書は大傑作でなければならない。 二大傑作の『夜想曲』と『ペレイラ』を比較すると、『夜想曲』の方が幻想小説の範疇

    供述によるとペレイラは…… - アブソリュート・エゴ・レビュー
    inmymemory
    inmymemory 2009/03/14
    "『インド夜想曲』『ペレイラ』が最も良い。次点『レクイエム』『島とクジラと女をめぐる断片』"
  • 島とクジラと女をめぐる断片 - アブソリュート・エゴ・レビュー

    『島とクジラと女をめぐる断片』 アントニオ・タブッキ   ☆☆☆☆☆ 再読。というかもう何度読んだか分からない。タブッキは大好きな作家だが、その中でも特にお気に入りの一冊である。 タブッキには他にも『インド夜想曲』『供述によればペレイラは』など傑作があるが、この『島とクジラ』はそういう他の作品とは全然違う形式の小説になっている。まず、一貫したプロットと登場人物が存在しない。異なる断片的なテキストの寄せ集めになっている。短編集のようでもあるが、全体がクジラ、難破、アソーレス諸島というテーマで統一されていて、何より一冊のとしてバランスよく美しく構成されている。 具体的には次のような構成になっている。 『まえがき』 『ヘスペリデス。手紙の形式による夢』 『アソーレス諸島のあたりを徘徊する小さな青いクジラ――ある話の断片』 『その他の断片』 『アンテール・デ・ケンタル――ある生涯の物語』 『沖合

    島とクジラと女をめぐる断片 - アブソリュート・エゴ・レビュー