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ブックマーク / doshin.hatenablog.jp (46)

  • 『名短篇、さらにあり』北村薫・宮部みゆき編(ちくま文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    姉妹編『ここにあり』がいまいちだったのであんまり期待していなかったのだけれど、こちらは好みに合う作品が多かった。もともと好きな作家はともかく、名前すら知らなかった著者の作品が当たりだったのは、アンソロジーを読んでいてとても得した気分になれます。解説対談で宮部氏が(たぶんわざと)深読みし過ぎたりとんちんかんなことを言ったりして、それを北村「先生」がそれとなく軌道修正するやり取りも、読者に親切だし面白い。 「華燭」舟橋聖一 ★★☆☆☆ ――只今、御指名に預かりました日熊でありますが、夕は名だたる朝野の名士が、ずらりと並んでおいでになる真ン中で、私のような末輩者が立上って何かお話を致すということは、まことに僭越きわまることと……。 オヤジのスピーチ(といってもまだ若いんだろうけど)のくどさつまんなさを皮肉っている以上、作品のギャグやユーモア自体もオヤジ臭いものになってしまうのは致し方のないこと

    『名短篇、さらにあり』北村薫・宮部みゆき編(ちくま文庫)★★★★★ - たむ読書日記
    inmymemory
    inmymemory 2008/12/07
    良作が並んでいる
  • 『THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ』矢作俊彦(角川文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    ハードボイルドという言葉を間違った意味で日に広めた人として名高い著者ではあるけれど、それだけじゃないんだよね。あらゆる意味での情報小説というか。いい年して自分探しとか、家族やら組織やらの身近な苦悩や軋轢とか、そういうのとはちょと違う。 矢作俊彦というとマッチョ・ハードボイルドというイメージがあったんだけれど、全然違うぞ。書に限って言えばむしろ主人公はカラーがない方だと思う。 文章はかっこいいのに主人公自体はかっこつけようともしてないし。息切れするんだもんなあ。(記号としての)野球っていうのがまたおっさんくさい。といってももちろん、冴えない中年男というわけでもないし、心に傷を負った駄目人間というわけでもないのだけれど。 目の前にピースは出揃っているのに、二村が鈍すぎるなーと感じてしまうところはある。読者はとっくに暗に感じていることに、百ページくらいあとになってからびっくりされても……とか

    『THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ』矢作俊彦(角川文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『死者のための音楽 山白朝子短篇集』山白朝子(メディアファクトリー)★★★★☆ - たむ読書日記

    「鬼物語」「黄金工場」「鳥とファフロッキーズ現象について」以外は未読だと思っていたのだけれど、読んでみたら「井戸を下りる」「未完の像」も『幽』で読んでいた。読んだこと自体を完全に忘れていたのでデ・ジャヴみたいで気持悪かった(^^;。よっぽど「鬼物語」が印象に残ったんだろうな。それで山白朝子という名前が初めてインプットされたのでしょう。 「長い旅のはじまり」★★★☆☆ ――「助けてください」「どうかしたのかね」「襲われて、父親が殺されました」少女の下腹部に小刀が突き刺さって、地面に赤い雫が落ちていました。恐ろしさのせいか、自分の名前をすっかり忘れていました。「では、お宮と呼ぶことにしよう」お宮が身ごもっているとわかったのは、三カ月後のことでした。 これは当に未読だった作品。なぜか花輪和一の絵が目に浮かんできて困った。語り手の奇想天外な思い出話が最後になって現実と結びつく、枠物語形式が余韻を

    『死者のための音楽 山白朝子短篇集』山白朝子(メディアファクトリー)★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』山口雅也編(角川文庫)★★★☆☆ - たむ読書日記

    北村薫・有栖川有栖・法月綸太郎に続く、格ミステリ・アンソロジー第四弾。 「道化の町」ジェイムズ・パウエル/宮脇孝雄訳(A Dirge for Clowntown,James Powell,1989)★★★★☆ ――死んだ道化師はあお向けに倒れていた。カスタード・パイが顔を覆っている。誕生日にパイを投げつけるのは、由緒あるクラウンタウンの風習であった。 現在ではめでたく河出ミステリーから短篇集が刊行されています。山口雅也アンソロジーのトップバッターにはいかにもふさわしい異世界ミステリ。道化やマイムの〈お約束〉をそのまま作品世界のお約束にしてしまったアイデアと、それをアイデアのままで終わらせずミステリとして完成させてしまった技量が光ります。 「ああ無情」坂口安吾(1951)★★★☆☆ ――「別荘に行李があずけてあるから、それを受けとり邸へ届けてもらいたい」二円もらえば、文句はない。捨吉はゆ

    『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』山口雅也編(角川文庫)★★★☆☆ - たむ読書日記
  • 『八つの小鍋 村田喜代子傑作短篇集』村田喜代子(文春文庫) - たむ読書日記

    「鍋の中」が読みたくて購入。 「熱愛」★★☆☆☆―― 友人の喪失をきっかけに自分探しを始めるうえに、その道具立てが若者のバイクという、青臭いことこのうえない作品なのだが、一人称が説明臭すぎて鼻につく。 「鍋の中」★★★★☆―― 素晴らしいね。こんな素晴らしい結びの小説というのは、なかなかない。リアリズム小説でありながらファンタジックな情景に溢れている。子ども特有の夢想とおばあちゃんの愛らしく謎めいた不気味さがぴったりの化学反応を起こしています。 「望潮」★★★☆☆―― 最後にシオマネキを持ち出してきて、いかにも教科書に載るような小説的に締めくくっちゃったのが残念。姥捨て系という説教臭くなりがちな題材を、箱車おばあちゃんの行進という奇観でせっかく輝かせていたのに。 ----------- 『八つの小鍋』 オンライン書店bk1で詳細を見る。 amazon.co.jp で詳細を見る。

    『八つの小鍋 村田喜代子傑作短篇集』村田喜代子(文春文庫) - たむ読書日記
  • 『考える人』2008年春号No.24【海外の長篇小説ベスト100】★★★★★ - たむ読書日記

    特集自体も魅力的なんだけど、高野文子の対談が掲載されていたので迷わず購入。来月号には高野文子論が載るそうです。 「長篇小説はどこからきてどこへゆくのか」丸谷才一インタビュー 長篇小説とは何かを考えるとっかかりとして、文学賞で選考するときの基準が三つ挙げられています。1.作中人物。2.文章、3.筋(ストーリー)。+先行作品の引用(ハイジャック)。鴎外の人気がないのは登場人物にあまり魅力がないこともあるのでは?なんて面白い指摘も。「秋声じゃ人気ないし」、「パスティーシュ、むずかしい」から鏡花の文体にしたという『輝く日の宮』の裏話も読めます。 「エッセイ・私の一冊 『虚栄の市』」河野多恵子 小説とはゴシップである、なる名言あり。 「長篇小説とは「完結する」ものである」池澤夏樹インタビュー ピンチョンはパラノイアを書いた作家であり、「自己不信がアメリカの空気にはたっぷり含まれている」という発想は、

    『考える人』2008年春号No.24【海外の長篇小説ベスト100】★★★★★ - たむ読書日記
  • 『ドリアン・グレイの肖像』ワイルド/仁木めぐみ訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    『The Pciture of Dorian Gray』Oscar Wilde,1891年。 ただの世間知らずの美少年だと思えていたドリアン・グレイが、突如として芸術至上主義者になったかのごとく豹変する第7章は圧巻です。それまでは、まあ言っても高等遊民のお気楽思想談義に見えなくもなかったんだけれど、ここで一気に人間の醜い素顔がさらけ出されて、物語がぐっと締まったものなあ。 悪に染まるその様こそがワイルドの面目躍如。解説でも触れられている『ジキルとハイド』「ウィリアム・ウィルスン」で描かれた単純な善悪の構図とは違って、さまざまな宝石の逸話や詩に惹かれて絡み取られてゆく様子には、読んでいるこちらも引き込まれる。耽美?頽廃? シニカルなヘンリー卿の一言一言も、飽きずに読み進めるのに一役買ってくれます。 “肖像”のことばかりが大きく取り上げられて紹介されることが多いけれど、はっきり言って肖像なんて

    『ドリアン・グレイの肖像』ワイルド/仁木めぐみ訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『マダム・エドワルダ/目玉の話』バタイユ/中条省平訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記

    生田訳バタイユは難解という印象があった。というわけで、新訳はいかに?と思い読んでみました。意外なことに生田訳って読みやすかったんだなあというのが率直な感想。新訳だけに自然で読みやすい一方で、原文の持つ「論理の愚直なまでの道すじ」を回復しただけあって、直訳調にならざるを得ないところがところどころある。 生田訳で読んだバタイユを再読してみるなら今回の新訳、初めて読むなら生田訳の装飾過剰な文章に圧倒されるのがよいのではないだろうか。 「マダム・エドワルダ」(Madame Edwarda)★★★★☆。新訳で読んでもやっぱり観念的で難解な作品。エピグラフはかっこいいんだけどな。 「目玉の話」(Histoire de L'Oeil)★★★★☆。解説ではサドの名前を挙げていたけれど、この新訳版で読むと乾いた語り口からむしろ『悪童日記』あたりをイメージした。これも翻訳の影響というものなのでしょう。タンビー

    『マダム・エドワルダ/目玉の話』バタイユ/中条省平訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー/丘沢静也訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    孤独なジョニー、弱虫のウーリ、読書家ゼバスティアン、正義感の強いマルティン、いつも腹をすかせている腕っぷしの強いマティアス。同じ寄宿舎で生活する5人の少年が友情を育み、信頼を学び、大人たちに見守られながら成長していく感動的な物語。ドイツの国民作家ケストナーの代表作。(裏表紙あらすじより) 素晴らしい! ケストナーというのはわたしにとってどうにも微妙な名前であった。気にはなるのだが、面白さがよくわからないのだ。『エミールと探偵たち』『雪の中の三人男』『飛ぶ教室』……。 しらじらしい。という気もする。ユーモアや道徳がわざとらしい。ような気もする。だけど、それが楽しめない決定的な理由ではないような気もしていた。そんなならほかにもいくらでもあるのだから。 『飛ぶ教室』を読むのは今回で三度目(それぞれ違う訳で)となる。これまでケストナーをいまいち楽しめなかったのは、翻訳が原因だったのか!と胸のつ

    『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー/丘沢静也訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ/望月哲男訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記

    「イワン・イリイチの死」(Смерть Ивана Ильича,1886)★★★★☆ こまった。なんだこの回りくどい文章は。。。と最初は思いましたよ、はい。「が、イワン・イリイチからすると何の理由もなく、つまり彼のいわゆるただの気まぐれから、生活の楽しみと品位を壊し始めたのだった。」とか「この場合、イワン・イリイチが花嫁を愛し、相手の心のうちに自分の人生観に共鳴するものを見つけて結婚したのだというのも、あるいは彼は自分の周りの社交界人士がこの縁組を支持したから結婚したのだというのも、〜」とかいうまどろっこしい文章の嵐である。 翻訳が下手なのかな……と思いながら「クロイツェル・ソナタ」を読むと、これはうってかわってたいへん読みやすい文章だった。ほかの訳者による「イワン〜」を読んでももってまわったような文章だったのを鑑みると、おそらくトルストイの原文がこういう文章なんだろうと思う。で、この

    『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ/望月哲男訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『黒猫/モルグ街の殺人』ポー/小川高義訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記

    訳は読みやすいし、連想の糸をたぐるようにテーマをしぼって編んでいるので、初心者にも入りやすい。解説もわかりやすすぎなほどわかりやすい。 「黒」(The Black Cat,1843)★★★★☆ ――わが家には鳥がいて、金魚がいて、犬がいて、そしてがいた。プルートーという雄は私とすっかり仲良しになった。だが、私の人格が――飲酒という魔力によって――激変した。ついにはに暴力をふるった。ある晩、酔った私は、の喉頸を押さえつけ、目玉を一つ、ざっくりとえぐり取ってやった! これがなぜ名作かっていうと、書収録の「告げ口心臓」や「ウィリアム・ウィルソン」の場合だと訳者の言うように「良心」の話だとしても不都合ないのだけれど、作「黒」の場合には「良心」には収まりきらないはみでた部分があるから。そもそも「黒」というモチーフを使われた時点で不気味なものを感じざるを得ないし、その名がプルートーと

    『黒猫/モルグ街の殺人』ポー/小川高義訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『海に住む少女』ジュール・シュペルヴィエル/永田千奈訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書&映画&音楽日記

    『L'enfant de la Haute Mer』Jules Supervielle,1931年。 「海に住む少女」(L'enfant de la Haute Mer)★★★★★ ――船が近づくと、町はまるごと波の下に消えてしまいます。そこにひとりぼっちで暮らす、十二歳くらいの少女。この町には何も、そして誰もやってくるはずなどありません。 あらかじめ与えられた喪失感。外も内もなく現れては消えだけを繰り返す不在の存在。存在していないものの存在を描くのは不可能なのに、かげろうのようなはかなさと透明感がその“不在”を包み込む。記憶のなかで人は永遠に生きる――ふつう肯定的に使われることの多い言葉を悲劇的に描いた作品。 「飼葉桶を囲む牛とロバ」(Le boeuf et l'âne de la crèche)★★★☆☆ ――ヨセフの引くロバの背には、マリアが乗っていました。牛はひとり、あとをついてゆ

    『海に住む少女』ジュール・シュペルヴィエル/永田千奈訳(光文社古典新訳文庫)★★★★☆ - たむ読書&映画&音楽日記
    inmymemory
    inmymemory 2008/05/09
    「海に住む少女(旧邦題は「沖の娘」)」は荒俣宏をして「こんなに美しい存在論的ファンタジーを、僕は他に知らない」と言わしめた
  • 『鼻/外套/査察官』ゴーゴリ/浦雅春訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    落語調の翻訳だなんて狙い過ぎだと思ってましたが、けっこうはまっていて驚きました。 『Нос/Ревизор/Шинель』Николай Васильевич Гоголь。 「鼻」(Нос)★★★★★ ――なんでも、三月二十五日にペテルブルクで奇妙きてれつな事件が起こったそうであります。床屋のイワン・ヤーコヴレヴィチが朝パンを切り分けてみると、何だか白っぽいものがある。引っぱり出してみるってえと、……これがなんと、鼻。 何度読んでも、鼻が制服を着て歩いているシーンがビジュアル的にどうなっているのか気になってしょうがない(^^;。 文体によって全然印象が違うものなんだなあ。これまでは真面目な顔で大ボラ吹いている印象だったのに、書で読んだらハナからホラ丸出しだった(^^)。 訳者の方は(たぶんとっつきやすさを考えて)いろいろおっしゃってますが、やはり小役人・小市民の悲哀みたいなものが全編に

    『鼻/外套/査察官』ゴーゴリ/浦雅春訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『プークが丘の妖精パック』キプリング/金原瑞人・三辺律子訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    『Puck of Pook's Hill』Rudyard Kipling,1906年。 わたしはこういう語り部タイプの物語は苦手なはずなのだけれど、これはわくわくしてしょうがなかった。不思議だな。 パックたちの引きのテクニックにも思わず引き込まれてしまう(^_^)。続きはまた……なんて言われると、我慢できずにページをめくってしまう。 何が面白いのかと聞かれても、生き生きしているとしか言いようがない。なんとなくアレッサンドロ・バリッコの『イリアス』を連想した。男っぷりがいいというか、英雄しか出てこない潔さというか。 でもそれじゃあブルフィンチの『ローマ神話』とかがあんまり面白くないのは、じゃあ結局原作者の実力の差なのか、ということになってしまうが。 ダンとユーナの兄妹は、丘の上で遊んでいるうちに偶然、妖精のパックを呼び起こしてしまう。パックは魔法で子供たちの前に歴史上の人物を呼び出し、真の物

    『プークが丘の妖精パック』キプリング/金原瑞人・三辺律子訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ/関口英子訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記

    『Il colombre e altri racconti』Dino Buzzati。 「天地創造」(La cerazione)★★★★☆ ――ようやく宇宙創造を終えた全能の神のもとに、技術者の一人が歩み寄ってきた。「若手グループで立案したプロジェクトをお見せしたいのです」 ノアの方舟に乗れなかった動物がいたなどというよりもよほど面白い、前代未聞の天使によるプレゼン。 「コロンブレ」(Il colombre)★★★★★ ――十二歳になったステファノは、父の船に乗せてもらった。「船の跡に黒いものが見えるんだ」父親の顔がみるみる青ざめた。「コロンブレだ。餌にする人間に何年もつきまとう。餌となる人にしか見えないんだ」 ああ。これって人生だな。最後になって初めて大事なことに気づく。何も見えずに一人合点したまま、みんな一生懸命生きてゆくのだ。 「アインシュタインとの約束」(Appuntamen

    『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ/関口英子訳(光文社古典新訳文庫)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『S-Fマガジン』2007年05月号(613号)【異色作家特集1】★★★★☆ - たむ読書日記

    〈異色作家短篇集〉完結記念【異色作家特集】第一弾英米編。 「合作」マイクル・ビショップ/内田昌之訳(Collaborating,Michael Bishop,1978)★★★★☆ ――頭がふたつあるのはどんな気分? もっと正確にいうと、ふたりでひとつの体におさまっているのはどんな気分? ぼくたちなら話してあげられるかもしれない。いまはぼく、ロバートが語り手をつとめている。ぼくはロバート。きょうだいの名前はジェイムズ。 悪くはない。が、〈異色作家短篇集〉のようなのを期待してると、ちょっと違う。『ミステリー・ゾーン』やら『世にも奇妙な物語』的な話ではなく、わりとSFらしいSFなのだ。状況とか雰囲気の不気味さを楽しむとかではなく、どちらかといえば真摯な問いかけ。ジレンマではあるが、相談相手がすぐそばにいる思春期ものとも取れる。頭と体は別々のもの、という感覚がいかにも思春期的だ。二つの頭という設定

    『S-Fマガジン』2007年05月号(613号)【異色作家特集1】★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『S-Fマガジン』2007年06月号(614号)【異色作家特集2】★★★★☆ - たむ読書日記

    【異色作家特集】の第二弾。今回は非英語圏作家。期待に違わずいい味の作品群でした。 「パリに行きたい」ミハイル・ヴェレル/大野典宏・森田有紀訳/七戸優イラスト(Хочу в Париж,Михаил Иосифович Веллер,1991)★★★★☆ ――パリへ行きたいという欲求は様々な形で現れる。「またパリへ行きたいのですよ」「すると、以前にも行ったことがあるのですか?」「いえ、以前にも行きたいと思ったことがあったのです」 『世界は村上春樹をどう読むか』のなかで、チェコ人の翻訳家が、「プラハ人、チェコ人として思うに、カフカの小説は「幻想」ではなくて「事実」なのです。チェコのお役所というのは、まさにカフカの小説そのままなんですから(笑)」などと言ってみんなを笑わせていたけれど、ソ連というのも似たようなものかもしれないと思ってみる。というのも、篇といいゴーゴリといい、何だかまったく同じテ

    『S-Fマガジン』2007年06月号(614号)【異色作家特集2】★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『13のショック 異色作家短篇集4』リチャード・マシスン(早川書房)★★★★☆ - たむ読書日記

    「ノアの子孫」(The Children of Noah) ――夜中の三時、田舎道を走らせていたケチャム氏は、スピード違反でパトカーに止められる。警官は罰金を払わせるそぶりも見せずに、ケチャム氏を警察署に連れて行った。のらりくらりとした尋問が続き、解放される気配はない……。 筒井康隆流の不条理ホラーかと思いきや、きちんと落ちてたのでほっとしました。ホラーでほっとするってのも何だかなと思うのですが、不条理ホラーってホントに救いがなくて読後感がよくないので。 「レミング」(Lemmings) ――どこからともなく人々が集まっていた。自動車、自動車、自動車。いったいどこからやって来るんだろう。 こんな短い作品の中に諷刺と恐怖を詰め込んだうえに、マシスンならではの“切なさを感じる地球の最後”みたいな味わいも感じることができる。 「顔」(The Faces) ――ブラックウェル夫人が喉を切り裂かれて

    『13のショック 異色作家短篇集4』リチャード・マシスン(早川書房)★★★★☆ - たむ読書日記
  • 『くじ 異色作家短篇集6』シャーリイ・ジャクスン(早川書房)★★★★★ - たむ読書日記

    「酔い痴れて」(The Intoxicated) ――彼が酔いを覚ますために台所に行くと、若い娘がコーヒーを淹れるところだった。 どこかしらサリンジャー作品の一こまを読んでいるような、現代っ子の話(あくまで雰囲気だけですが)。思春期の子どもの、大人に対する怒りと未来への空想力が、かつて子どもだった大人には不安定で危ういものに思えてしかたがない。 「魔性の恋人」(The Demon Lover) ――もうすぐ彼と結婚する。十時にはここに迎えに来るはず。今は十時二十九分。彼はまだ来ない。 恋人の失踪というと、ウールリッチの「アリスが消えた」や「階下で待ってて」[bk1・amazon]を連想します。残された者の焦燥感や、誰からも相手にされない歯がゆさはウールリッチ作品にも共通のものです。ですが編の最後に待っているのはウールリッチ作品のような結末ではありません。 英語で「demon drink」

    『くじ 異色作家短篇集6』シャーリイ・ジャクスン(早川書房)★★★★★ - たむ読書日記
  • 『無限がいっぱい 異色作家短篇集9』ロバート・シェクリイ/宇野利泰訳(早川書房)★★★★★ - たむ読書日記

    原題『Notions:Unlimited』Robert Sheckley,1960年。 「グレイのフラノを身につけて」(Gray Flannel Armor)★★★☆☆ ――トマス・ハンリーは一見常識人らしい外貌を示しているが、その皮膚の下にはロマンチックな血潮が打ち騒いでいる青年である。だがロマンスというものは大都会では手に入れることの困難な商品である。そこへロマンス・サーヴィス社の社員と名乗る男が現れて……。 ロマンスが商売になったり冒険が商売になったり(「一夜あけて」)、とかく未来は刺戟が少ないものらしい。ハンリーが体験するロマンス・サーヴィス社のサービス内容よりも、終盤に描かれる、刺戟を求める一般大衆の反応がおかしい。平和な世の中なら喧嘩が刺戟に、物騒な世の中なら平穏が刺戟になるんだろうさ。ロマンス(のサービス)にすっかり浸った一般人には、こういうのも刺戟的なのでしょう……。 真実

    『無限がいっぱい 異色作家短篇集9』ロバート・シェクリイ/宇野利泰訳(早川書房)★★★★★ - たむ読書日記