2016年6月23日のイギリスのEU残留・脱退を問う国民投票は、脱退派が約4%ポイント上回り多数をしめた。両派接戦が事前の世論調査や討論会の模様でも伺えたが、それでも全世界が結果にまさかと驚いた。他のEU諸国も残念だが尊重はするといった共同声明をだしたが、早く脱退通知をせよとも迫った。その後のイギリス国内政治は混乱しはじめている。 本稿では、政治闘争の土ぼこりを避け、法的な角度からイギリスのEU脱退(Brexit)国民投票のイギリス憲法上の意味と今後の脱退意思の決定の主体と手続について手短に考察してみよう(EU法上の問題は別の機会に論じる)。まずはイギリス憲法の基本から説き起こさねばならない。 「国会主権の原則」 イギリスには成文憲法典がない。だが、判例法や制定法により一定の憲法原則は確立している。その一つが「国会主権の原則」である。19世紀の憲法学者ダイシー (Dicey)の古典的な定義