【読売新聞】進化から本性に迫る 私たち人類は、地球上に実に多様な文化を生み出してきた。住む場所が変われば習慣は変わるし、ほんのお隣の国でも考え方の違いに驚くことがある。多様な文化が、多様な暮らしを作っているように見える。 だが一方で
きわめて珍しい本ではないだろうか。『出島遊女と阿蘭陀通詞--日蘭交流の陰の立役者』(勉誠出版)。鎖国の時代にオランダ商館が置かれた長崎の出島。そこの通訳にスポットを当てた本は知っているが、「遊女」は初耳だ。 歴史の陰に女あり――出島の遊女は陰でどんな活躍をしたのか。ミステリーじみた興味もわいてくる。 男性より女性が多い 本書の冒頭で、一枚の古い絵が紹介される。「出島阿蘭陀屋舗景」。出島の様子を描いている。今でいえばドローンで撮影したような俯瞰図だ。建物の外観だけでなく、内部の様子や通りを歩いている人物も判別できる。意外なほど女性が多い。男性が22、3人。女性が何と26人。内訳は洗濯女が1人、他はすべて遊女たちだ。二階の窓から顔をのぞかせている。 当時の出島は一般の日本人にとって禁断の場所だった。出入りが許されたのは、ごく限られた人だけ。その中に「傾城」がいた。城を傾けさせるほどの美人。すな
英語教育をめぐって2年後に、大学入試での新テスト導入や小学校での「英語」教科化など、大きな変更の実施が控えているせいか、このところ、関連本の出版が増えている。本書『TOEIC亡国論』(集英社)は、いまや英語能力を評価する標準にもなっているTOEIC(トーイック)が、それ自体が攻略すべき目的であるかのような存在となっていることを指摘。英語教育そのものが迷走状態に陥っているという。 TOEICを拠りどころに誤った人材選びしている役所や企業、学校、それに、TOEICのスコアアップを至上命題に英語力の向上を目指す人たちに向け、そろそろTOEICに振り回されるのをやめてみませんか、と呼びかけている。 大学入試の英語で4技能、小学校では教科化 東京オリンピック・パラリンピックの翌年、2021年1月には、前年までのセンター試験に代わって「大学入学共通テスト」になる。英語のテストでは、それまでの「読む」「
ゲノム解析技術の爆発的な進展、とくに次世代シークエンサという従来とはまったく異なる原理でDNA配列を読み取るマシンが誕生し、簡単にヒトのゲノムを読み取ることが可能になったという。著者のアダム・ラザフォードは理学博士。雑誌「ネイチャー」編集部に勤務した後、科学ジャーナリストとして英国で活躍している。本書は化石人骨に含まれる微量のDNAを抽出して解読する技術の発展がもたらした知見をもとに、人類進化の実像を語ったものである。 驚くべき事実が明らかになる。われわれホモ・サピエンスの祖先がネアンデルタール人とたびたび交接し、子をなした証拠がゲノムに記されているという。全DNAの2.7%がネアンデルタール人からのものだそうだ(ヨーロッパの平均値)。さらにシベリアの奥地で発見された第三の人類「デニソワ人」のDNAは現代のメラネシア人(フィジー、パプアニューギニア、オーストラリアの土着民)の中に健在だとい
もう40年ほど前だろうか。こんな話が伝わってきた。西江雅之という人は、英語の本をドイツ語に訳しながらフランス語で会話ができるんだ、と。当時既に気鋭の文化人類学者であり、数十の言語に通暁している言語学者として知られていたが、その全貌はまだ見えなかった。遺著となる本書を読むと、西江さんが世界各地を旅して回り、そこで何を見ようとしていたのか、分かる気がする。 本書は、2009年から11年まで「考える人」に連載された「マチョ・イネの文化人類学」(マチョ・イネはマサイ族の言葉で「四つ目」、つまり眼鏡をかけている人のことで西江さんの愛称)をまとめたものだが、著者の死によって加筆修正が未完となっている。 全9章で、表題の通り、伝え合い(人と人との現場での対面的なコミュニケーション)に関して考察したもの。従来のコミュニケーション論の多くが「言語」と「非言語」とを分けて論じているのに対して、ここでは、ことば
こんな辞書に、高校生のころ出会っていたなら! 昨年の暮れに発売された『新全訳古語辞典』を読みながら、つくづくそう思う。 中年をすぎて初老にさしかかるころから、古典文学に親しむようになった。ときどき『源氏物語』や『伊勢物語』『平家物語』などを読んでみる。おもしろい。しかし、悲しいことに、よくわからないところも多い。日本語なのに。とくに和歌は雲をつかむようだ。若いころ、もっと勉強しておくのだった。 『新全訳古語辞典』は中高生向け学習辞典である。老眼+白内障の眼にはたいへん見やすい。中高生だけでなく、中高年にもオススメだ。用例が豊富でわかりやすく、全訳、つまり現代語訳が載っているので現代語とのニュアンスの違いもわかる。重要語は「まとめて覚える!」「これで覚える!」などメリハリの利いた解説があり、これは受験対策か。 感心したのは敬語の解説だ。見取り図と図解によって、相手との関係やことばの用い方を説
ヒトにもっとも近縁な類人猿はチンパンジーだ、ヒトとネアンデルタール人は交配していた、ヒトが出アフリカを果たしたのは5万年前ではなく10万年前にもさかのぼる。最先端の分子生物学は、ヒトの起源について驚くほど多くのことを教えてくれる。 「ゲノム時代」と呼ばれる現代では、新事実が発見されるスピードは加速度的に増している。つい先日も、「ネアンデルタール人絶滅は人類の病気のせい?」という目を引くニュースが伝えられていたように、人類の足跡は徐々にだが着実に明確になりつつある。 ヒトの起源に関する最新成果の多くはゲノム解析によるものだというが、非専門家にはゲノム解析が具体的にどのようなものであるかを想像することは難しい。科学者たちはどのような物的証拠を集め、どのように分析し、どのようにロジックを構築して、驚きの結論を導いているのか。
2020年の東京五輪を見据えて、英語教育の必要性が叫ばれる昨今。「子供をバイリンガルにしたい」「どうせなら早いうちに...」と考える親御さんも多いのではないでしょうか? 2か国語を自由に話せるバイリンガルというと、語学の才能を活かし、国際社会でも活躍できるなど、良い面ばかりがクローズアップされがちです。 しかし、日本人の母と、ドイツ人の父の間に生まれ、日本語とドイツ語のバイリンガルであるサンドラ・ヘフェリンさんは、自著『ハーフが美人なんて妄想ですから - 困った「純ジャパ」との闘いの日々』のなかで、「2つの言語を同時に習得する」ことの危険性を、以下のように指摘しています。 「『2つの言語を同時に習得する』というと聞こえはいいですが、常に『中途半端』となる危険性がつきまとうということです。両方習ってきたはいいけど、読み書きが怪しいとか、文法が怪しい、というのはよくある話なのです」(同書より)
書くための表現力向上に役立ちそうな辞典が登場した。小内一編『てにをは連想表現辞典』(三省堂、3200円)=写真=だ。 日本を代表する現代作家400人の名表現を作中から採集し、1万1600語の見出しを立て、「愛する・可愛(かわい)がる」「恐ろしい・怖い」など382グループに分類。その言葉が、どのような使い方をされているか紹介した。 「寂しい」の項目をひくと、「空が淋しいほどに薄青い」「森の中の井戸の中にでも落ちこんだように淋しい」などの文例が見つかる。すぐに、手紙に使いたくなる。 三省堂では、ある単語がどの語に結びつくかなどが分かる小内さん編『てにをは辞典』と合わせ、活用してほしいとしている。
施光恒著『英語化は愚民化』(集英社新書) 猛暑のなか連日、全国で「安全保障関連法案」反対のデモが市民、女性、学生によって展開されている。 その陰で、国民が油断しているうちに、安倍政権は国のかたちを大きく変えるもう1つの政策を進行させている。それが本書のタイトルでもある日本「英語化」、そして日本国民「愚民化」政策である。わかりやすく言えば、自ら「植民地」になることを志願するというものだ。このことはTV、新聞等のマスメディアではほとんど報道されない。 国のかたちが今奇妙に歪められようとしている 著者は、九州大学大学院比較社会文化研究院准教授。慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士課程で修士号、慶應義塾大学大学院法学研究科で博士号(法学)を持つ気鋭の政治学者である。 施光恒氏は、本書を通じて、日本の国のかたちが、今まさに「英語化」政策によって奇妙に歪
普段何気なく使っている日本語。小さい頃から慣れ親しんでいる私たちは、その存在を当たり前のように使いこなしているものの、日本語は漢字、平仮名、片仮名が入り混じった複雑なものです。 たとえば、 ① きょうはあめがふっていたのでえきからばすにのってきた ② キョウハアメガフッテイタノデエキカラバスニノッテキタ ③ 今日は雨が降っていたので駅からバスに乗ってきた 上から順に、平仮名だけの表記、片仮名だけの表記、そして漢字や平仮名、片仮名の入り混じった表記。並べてみると、日本語に慣れ親しんだ者にとっては、③が読みやすいことがわかります。 こうした複雑な構造をもつ、日本語とはどのような言葉なのか。本書『日本語の風景 文字はどのように書かれてきたのか』では、2011年に開催され好評を博した、専修大学図書館企画展「和うるわし――日本の文字と書物の歴史」を基とし、企画展に関わった研究者を中心に、その際の講演
犬の吠え声は、日本では「わんわん」だが、江戸時代以前は、「びよ」とか「びょう」と聞こえていた。英語では「バウワウ」。オノマトペは、国・地域や時代によって変わるのである。 鶯(うぐいす)の鳴き声が「ほーほけきょー」となったのも江戸時代からで、平安時代には「ひとく」と鳴き、鎌倉・室町時代には「つきひほし(月日星)」と鳴く鶯が最高だったという。 ぎょっ、じぇじぇじぇと驚く蘊蓄(うんちく)を含め、約2000語の擬音語・擬態語を、万葉集から漱石、太宰、村上春樹、コミックまで、用例をわんさか使い、解説する。 「うふ」と笑うしぐさでも、「うふふ」は照れ笑い、「うふっ」だと吹き出す明るい感じで、「うふふふー」だと〈主として若い女性の、意味ありげな含み笑い〉となる。ちょっとの違いが大きな差。オノマトペ、恐るべしだ。〈がらり、ととととかけこんだものがある〉など、人間の五感を刺激する作家、幸田文の文章の特色を紹
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