服部龍二教授の新著『日中国交正常化』は2011年5月に中公新書として出版された。2012年は田中訪中40年であり、その前夜に40年前の歴史を顧みて、未来の道筋を探ることは、時宜を得たテーマであるから、早速手にした。一読して、駄作と感じた。「田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦」というサブタイトルが付されているが、本書の実質は「官僚たちの挑戦」の自画自讃に終始して、田中や大平の肉声は聞こえてこない、敢えていえば抹殺されたに等しい。「本当の政治主導とは」と帯封に書かれているが、私は「本当の官僚主導とは」と誤読したほどだ。私はこの本に深い失望を禁じ得なかったが、若い研究者を挫くことは老人としてあるまじきことと考えて、書評を控えていた。 しかし、本書は毎日新聞アジア調査会の設けたアジア太平洋賞を得たかと思うと、ついには朝日新聞大佛次郎論壇賞を得た。前者の会長は栗山尚一元アメリカ大使である。官僚礼讃の