私は分析哲学を専門としているが、そうした立場からつねづね《分析哲学をやっているひとはもっとマルクスとエンゲルスの『資本論』に関心をもってもよいのではないか》と感じる。なぜなら、一方で現状において《分析哲学者の多くは『資本論』のことを知らない》と言わざるをえないが、他方で《この作品は分析哲学者の好む仕方で読むことができる》とも言えるからだ。本ノートは、分析哲学を好む性質のひとの心内に、『資本論』への関心を喚起することを目指す。 議論の出発点としてひとつのパズルを考察しよう。それは「交換をめぐるパズル」と呼ばれうるものだ。パズルの設定は以下。 物々交換を行なうマーケットがあるとする。そこでは例えば、山のひとが野菜を出品し、海のひとが魚を出品する。より具体的には、Xは一定量のニンジンを提示し、Yは一定量のイワシを提示し、双方が合意して交換が成立する、などが行なわれる。さて――ここで生じうる問いだ