医者の随筆は面白い。 医者を(・)書いた文章ではなく、医者が(・)書いた文章である。 高田義一郎、式場隆三郎、正木不如丘、渡辺房吉、福島伴次――結構買ったが、今のところハズレを引いたことがない。どれもこれも、最後の一ページに至るまで、私の興味を捉えたまま放さなかった。 現在向かい合っている『研究室余燼』も、そんな「医者の随筆」の一冊である。 昭和十八年発行。 著者の名前は貝田勝美。 九州帝国大学で第三内科の教授職を務めていた人物だ。 カルテよろしく話の筋が明晰で、かといって無味乾燥というわけでもなく、厭味にならないユーモアがふんだんに散りばめられており、目を通している間中(あいだじゅう)、まず退屈とは無縁でいられる。将棋に熱中するあまり、敗れるや否や脳貧血を起こしてぶっ倒れた医学博士の話など、まるで『ハチワンダイバー』の世界だとたまげざるを得なかった。 貝田教授もこの博士――文中では「T博