シカゴは屠殺場の街。 牛・豚・羊――合衆国にて飼養される家畜類の大半は、鉄道ないし水利によって一旦ここに集められ、食肉に加工された後、再び散って国じゅうの食卓に載せられる。それが二十世紀前半の、日本人の偽らざる認識だった。 実際問題、そういう景色を一目見たくてこの地を踏んだ観光客も数多い。 (『ウィッチドッグス』より。2013年のシカゴが舞台) 彼らの残した紀行文を取り纏めると、おおよそ以下のようになる。 ――まず感じるのは、臭いであった。 屠殺場の門扉をくぐる一マイルも手前から、もう鼻奥に一種異様な、「死臭」と表現しておく以外に術のない、重い刺激が来るという。 大正末期――西暦にして一九二五年の段階で、シカゴに於いては一日平均三千六百頭の牛、八千四百五十頭の犢(こうし)、一万八百頭の豚、一万三千四百五十頭の羊を捌いていたということだから、むべなるかなであったろう。ほとばしり出る鮮血だけで