その老人は英国の名探偵よろしく杖で地面を叩いた。 「これは艦です」 私は首をかしげた。いったい老人は何をいっているのだろう。 ここは東京の中心地。 聞こえてくるのは自動車の騒音と信号機の音色。 せわしなく行きかう人々は、ひたすら前を向いて歩いている。もちろん動くことのない足元に注意をはらう者などいない。 しかし当惑する私を見て、老人は目を閉じていった。 「耳をかたむけましょう。二十一世紀の今だからこそ、日本海軍のあるべき姿が感じられるはずです」 私も立ちどまり、いわれるがまま目を閉じた。 しばらく待っていると、少しずつ喧騒が遠くなっていく。 やがて足元から、規則的な水の音が聞こえてきた。 それはたしかに波の音だった。 かつて大日本帝国の連合艦隊は、その名を世界にとどろかせていた。 それが良い意味なのか悪い意味なのかはわからない。 ある軍艦などは、英国に派遣された時、飢えた狼のようだと現地で