村上春樹氏(60)が作家生活30年を経て発表した長編『1Q84』(新潮社)は、現実から少しだけねじれた世界で進む物語だ。どのように発想され、どんなテーマが込められたのだろう。(尾崎真理子) 村上(以下M) G・オーウェルの未来小説『1984』を土台に、近い過去を小説にしたいと以前から思っていた。もう一つ、オウム真理教事件がある。僕は地下鉄サリン事件の被害者60人以上から話を聞いて『アンダーグラウンド』にまとめ、続いてオウムの信者8人に聞いた話を『約束された場所で』に書いた。その後もできる限り東京地裁、東京高裁へ裁判の傍聴に通った。 事件への憤りは消えないが、地下鉄サリン事件で一番多い8人を殺し逃亡した、林泰男死刑囚のことをもっと多く知りたいと思った。彼はふとした成り行きでオウムに入って、洗脳を受け殺人を犯した。日本の量刑、遺族の怒りや悲しみを考えれば死刑は妥当なのだろうと思うが、基本的に僕
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