7月に刊行された柴崎友香『百年と一日』について、ミュージシャンの後藤正文さんにエッセイを書いていただきました。 音楽家であり、短編小説も書かれる後藤さんは本作をどう読んだのか? ぜひともお読みください! (PR誌『ちくま』2020年8月号からの転載です) 文章は紙に印刷できるところがうらまやしい。 俺が生業にしている録音された音楽の歴史は、文字が石に刻まれたり紙に書かれたりしてきた歴史よりも圧倒的に短く、長くみても百五十年には届かない。 一世を風靡したと言っていいCDという音楽用のメディアも現在では風前の灯火で、レコード盤で音楽を聴く好事家が若者たちの間でも増えているという話もあるけれど、全体で見れば配信が主流になった。音楽には紙のような確固たるメディア=容れ物がなくなってしまったと言える。 そうなると表現物としての強度が落ちる。 何をもって強度とするのか。そうした疑問を持つ人がいるだろう