小さな集落で尊敬を集める「院長先生」が、患者を「安楽死」させたとして、殺人容疑で逮捕される。1996年に京北町(現・京都市右京区)で起きた事件は、全国に衝撃を与えた。21年前、「殺人医師」と盛んに報じられた元院長は、現在も医師を続けている。ジャーナリストの宮下洋一氏が、当時の真意を聞いた――。(後編) ※本稿は、宮下洋一『安楽死を遂げるまで』(小学館)の第6章「殺人医師と呼ばれた者たち」を再編集したものです。 「冷静だったらやっていない」 (前編から続く)ただ、一つ気になることがあった。彼の話を遮り、質問した。 先生は、「動揺」という言葉を繰り返していますが、冷静な判断だったら、あのような形の死にはなっていなかったと? ベテラン医師は、その時、おそらく言うべきではない、いや、私としては言ってほしくない言葉をさらりと言った。 「うん、だから冷静だったらね、逆に何もしないかもしれない。何もしな
