哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら * * * 私の『武道的思考』という本が韓国で訳された。訳者の朴東燮先生が何年も前から出版社を回ってくれたのだが、相手にされなかった。その本が先日訳された。思いがけなく若い人たちによく読まれているらしく、9人の若者が書いた書評を訳して朴先生が送ってくれた。 韓国社会は競争が激しい。それは韓流ドラマを見ているとよくわかる。ライバルを蹴落として、頂点めざして這い上がり、敗者は一顧だにされない苛烈な競争は少なからぬ数の若者たちの心に深い傷を残していると私は思う。 私が「武道的思考」と呼ぶのは「修行者的マインド」のことである。修行者は競争をしない。ただ師の背中を見ながら道を歩く。道がどこに続いているのか、修行者には
