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ブックマーク / honz.jp (9)

  • 『国道16号線 「日本」を創った道』 - HONZ

    私が住む東京都町田市の小田急町田駅の東口の広場には「絹の道」という石碑がある。それをゼミ生に見せてからJR横浜線の下り線に乗り、八王子に向かう。その車中で、なぜ八王子と町田を結ぶこの街道が絹の道と呼ばれるか、学生たちに説明する。 このあたりの多摩丘陵の地形地質が桑畑に向いていて、それが地域の養蚕業を盛んにしたこと。そうして絹製品の産業基盤がこのあたりにあったところに、幕末期に盛んになった生糸輸出で、山梨や長野、群馬の生糸がいったん八王子に集まり、そこから輸出港横浜まで運搬されるルートができたこと。その流通加工拠点であった八王子には富が蓄積されたし、横浜までは生糸を馬の背に乗せて運ぶにも一日では歩ききれないので、行商人たちがその中間地点の町田で一泊してお金を落としたこと。横浜で生糸を売り捌いて懐が暖まった行商人たちが、おそらく帰路についた一泊目の町田で羽根を伸ばしたので町田には町の規模の割り

    『国道16号線 「日本」を創った道』 - HONZ
  • 麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 - HONZ

    麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 歴史、特に最悪の医療の歴史などを読んでいると、あ〜現代に生まれてきてよかったなあと、身の回りに当たり前に存在する設備や技術に感謝することが多い。昔は治せなかった病気が今では治せるケースも多いし、瀉血やロボトミー手術など、痛みや苦しみを与えるだけで一切の効果のなかった治療も、科学的手法によって見分けることができるようになってきた。 だが、そうした幾つもの医療の進歩の中で最もありがたいもののひとつは、麻酔の存在ではないか。正直、麻酔のない世界には生まれたくない。切ったり潰したりするときに意識があるなんてゾッとする──現代の医療に麻酔は絶対絶対必須だ。そのわりに、患者に麻酔を施す麻酔科医の仕事は光が当たりづらい分野である。何しろ実際に手術や治療を担当することはめったにないから、麻

    麻酔で意識が落ちた時、何が起こっているのか──『意識と感覚のない世界――実のところ、麻酔科医は何をしているのか』 - HONZ
  • 『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ロシア史上最悪の遭難怪死事件に挑む - HONZ

    一般に、は読めば読むほど物知りになれると思われがちだが、実際は逆だ。読めば読むほど、世の中はこんなにも知らないことであふれているのかと思い知らされる。その繰り返しが読書だ。 「ディアトロフ峠事件」をぼくはまったく知らなかった。これは冷戦下のソヴィエトで起きた未解決事件である。 1959年1月23日、ウラル工科大学の学生とOBら9名のグループが、ウラル山脈北部の山に登るため、エカテリンブルク(ソ連時代はスヴェルドロフスク)を出発した。 男性7名、女性2名からなるグループは、全員が長距離スキーや登山の経験者で、トレッキング第二級の資格を持っていた。彼らは当時のソ連でトレッカーの最高資格となる第三級を獲得するために、困難なルートを選んでいた。資格認定の条件は過酷なものだったが、第三級を得られれば「スポーツ・マスター」として人を指導することができる。彼らはこの資格がどうしても欲しかったのだ。 事

    『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ロシア史上最悪の遭難怪死事件に挑む - HONZ
  • 『スモール・スタート あえて小さく始めよう』会社員のうちに始めよう - HONZ

    新しいことを始めたい、だけどなかなか始められない。そう思っている人のやらない理由を、一つずつ消していってくれる一冊だ。 著者の水代優さんは、日橋浜町にHama Houseというブックカフェを作ったり、最近では丸の内にMarunouchi Happ.stand&galleryというPOP UP GALLERYを作った人物だ。とはいっても、何をやっている人なのか一言で説明するのがなかなか難しい。当に先鋭的なアクションというのは言葉で説明されても理解しづらいが、その場を訪れ直接体験してみるとなるほどと思うことが多いものだ。 しかしそんな水代さんの第一歩も、出来上がったものからは想像できないくらい小さなことから始まった。書は、それを実現するための思考回路が余すところなく収められた一冊である。時代からくる必然性、動き出すことに対するリスクの勘案、続けるためのノウハウ等、読み手の「でもさ〜」とい

    『スモール・スタート あえて小さく始めよう』会社員のうちに始めよう - HONZ
  • だれもが楽しめる美しい科学絵本『世界を変えた50人の女性科学者たち』 - HONZ

    ある国際学会で、若手研究者プログラムの責任者を仰せつかったことがある。世界各国から100人程度の優秀な若手研究者が合宿形式で集い、成果を発表する。その中から、5名の優秀者を投票で選んで表彰しようという趣向である。 受賞者の顔ぶれを見て、学会トップで賞のプレゼンターである英国人女性研究者が、いきなり烈火のごとく怒り出した。どうして5名の中に女性が入っていないのかというのだ。正直、驚いた。公正な投票で選んだので、と説明しても怒りはおさまらない。賞金は自腹で出すから女性を一人追加しなさいとまでいう。もちろんそこまで言われたら受け入れざるをえない。5名の予定を6名に増やし、賞金は学会に出してもらった。 グローバルスタンダードはそこまできているのかと、心底驚いた。十年以上も昔の話である。この出来事があって、男女共同参画についての考えが大きく変わった。といえば、聞こえはいいが、ある種のトラウマになった

    だれもが楽しめる美しい科学絵本『世界を変えた50人の女性科学者たち』 - HONZ
  • 孤高の理想家『僕はポロック』 - HONZ

    芸術家にも色々なタイプがいて、ミケランジェロのようにルネサンスのギルドでその腕を発揮する人もいれば、ゴッホのように耳を裂き苦悩しながらも純朴に内面美を追求する人もいる。またピカソのように頭脳と腕を駆使し、王座に君臨する人間もいる。ジャクソン・ポロックはというと、若い頃は病的なまでのシャイであり、何よりも生涯アルコール依存症だった。 アル中のポロックは、人生のほとんどをセラピーを受けながら作家活動に専念していた。彼が生み出したドリッピング技法というポタポタと塗料をたらしこむ絵画手法は、自分の手先を離れた所で生み出される無意識の内的表現であり、これは後に世界中に知らしめることになったが、当時いつも見えない恐怖が襲ってくるのをアルコールに頼っていた。ただ、どんなに酒に溺れた生活でも、アトリエではシラフだった。書では幼少期からとのロングアイランドでのアトリエ生活を経て、飲酒運転で事故死するまで

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  • バイオエレクトロニクス――現実化する攻殻機動隊ワールド - HONZ

    みなさま、正月三が日も終わろうとしておりますけれど、今年もサイエンス通信をどうぞよろしくお願い申し上げます。 できるだけ幅広い分野から話題を選びたいと思っているのですが、あらためてそういう目で眺めてみると、『ニューヨーカー』のサイエンス記事って、バイオ&メディカルな話題が強いですねぇ。数学や物理学の記事は、それに比べるとガクンと少なくなります。まあ、それも当然でしょうかねぇ。社会生活に及ぼす影響という点では、バイオ&メディカルは大きいですからねぇ。 でも、私たちの暮らしへの直接的・短期的な影響の大きさや、狭い意味でのサイエンスに閉じずに、言語や文化歴史にもつながるような少し広めの間口で、今年も面白い話題をご紹介していきたいと思っています。 とは言いながら、今回もバイオな話題です……。 バイオエレクトロニクスの分野は、まさしく日進月歩ですね。攻殻機動隊の舞台となっている近未来が、じりじりと

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  • 『野生のオーケストラが聴こえる』 音の来た道 - HONZ

    思い返せば、自然の音を一番聴いていたのは、たぶん小学生の時だった。だからだろうか、書を読むと懐かしい気持ちになる。そして旅に出たい気持ちになる。 目で観るのが風景ならば、耳で聴くのは「サウンドスケープ(音風景)」だ。サウンドスケープは「ある瞬間にわたしたちの耳に届くすべての音」という意味で、1960年代後半にカナダの作曲家マリー・シェーファーが作った言葉だ。 書の著者は、自然のサウンドスケープを初めて採用したアルバム『In A Wild Sanctuary』を1968年に発表した専門家で、40年以上も自然を録音し続けてきた。そのコレクションは、生物の数にして15000種類以上、時間にして4500時間以上に及ぶ。 もともとはスタジオギタリストとして音楽業界でキャリアをスタートし、フォークバンド『ウィーヴァーズ』のメンバーとなった。バンドの解散後、『ビーヴァー&クラウス』を結成、アナログシ

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  • 『弱くても勝てます』 超進学校の「異常な」セオリー - HONZ

    住大夫の自伝である。おなじみ日経済新聞「私の履歴書」の書籍化だ。ちなみに近年「私の履歴書」で最も面白かったのは李香蘭すなわち山口淑子だった。書は次点だが、経営者の自叙伝の何十倍も面白い。何万倍かもしれない。つまり経営者の自叙伝などはことごとく面白くない。そういえば佐野眞の『甘粕正彦 乱心の曠野』などは李香蘭の自伝を読んでからのほうがはるかに面白いはずだ。話が脱線した。 竹住大夫は義太夫節の大夫である。三味線弾きと二人で人形劇である文楽に登場し、物語の一切を語るのが大夫だ。住大夫はその最高峰なのだ。もちろん人間国宝だ。義太夫節とは大阪弁丸出しのダミ声でわめくような感じの日独特の歌唱法である。あまりに独特なので初めての人は面らう。ともかく何を言っているのかさっぱりわからない。しかし、慣れてくると、これがじつに素晴らしいのだ。 ところで書によれば、竹住大夫は奈良の薬師寺の故高田

    『弱くても勝てます』 超進学校の「異常な」セオリー - HONZ
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