秋の夕方には、どこか突き放すような優しさが混じっていると彼は思う。空気には昼間の暖かさの残滓が残り、からからとした心地よさの裏で、時折吹く弱い風は夜の冷たさを抜け目なく忍ばせて来るのだ。 彼は夏服のカッターシャツから剥き出しになっている腕を軽くさすりながら、学校の帰り道を歩いて行く。 言葉について考える。言葉は嫌いだ。胸の奥にある薄ぼんやりした感情に何らかの名前を与えて発音した途端、ほんとうのことが消えてしまうような気がするのだ。かと言ってぼんやりした感情が言葉よりも好きかと言えば、別にそうでもない。そんなところだ。 彼には何もない。将来やりたいこともない。中学時代からやっているテニスにしても、惰性で続けているに過ぎない。さほどうまくもない。人とうまく喋ることもできないし、自分がどんな顔で笑っているのかわからないまま、周りに合わせて笑っている。学年トップ層を譲ったことがない成績にしても単純