第二二回鮎川哲也賞を受賞したデビュー作『体育館の殺人』の単行本刊行時に、青崎有吾はミステリにおける論理展開の緻密さを評価され、「平成のエラリー・クイーン」という異名を戴いた。その異名が長らく作家像を規定していたが、平成最後の冬に発表した最新短編集は、ロジックの緻密さはそのままにとある感情へとフォーカスを当てて、これまでの作家像を壊すミステリとして完成した。 五月中旬の早朝、郊外を走る始発電車に乗り込んだ高校二年生の「僕」は、同じ車両に一人だけ乗客がいたことに驚く。普段あまり話さないクラスメイトの女の子だ。校門が開くのは七時半にもかかわらず、五時半の始発に乗っているのは何故だ? その疑問を抱いたのは、相手も同じだった。ぎこちなく挨拶を交わした二人の会話はいつの間にか、お互いが始発に乗った目的を探り合うゲームへと発展する──。 表題作である第一話「早朝始発の殺風景」に、本書収録作に通底する魅力