トッド・ヘインズ監督の前作『キャロル』は素晴らしい映画だったけれども、新作『ワンダーストラック』を前にした今、『キャロル』は『ワンダーストラック』のためのあくまで手法上のリハーサルだったのではないかとさえ思われてならない。『キャロル』の中で車窓のガラス面や水滴のカットにかいま見えた物質的想像力が、今回は堰を切ったように全面展開してゆく。『ワンダーストラック』は非常に混乱した映画ではある。混乱しつつ、なおかつ透明たりうるという相矛盾したことが生起する、そんな稀有な瞬間の集積こそ、『ワンダーストラック』という時間なのだ。 1977年──主人公はミネソタ州の寒村に在住、母親を交通事故で亡くしたばかりの12歳少年ベン(オークス・フェグリー)。もともと父親はいない。ベンを演じた子役俳優オークス・フェグリーは、ディズニーの実写ファンタジー『ピートと秘密の友達』(2016)でやはり両親を事故で失う孤独な
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