――――我々はただ願うのみ。 我々は、ただ祈るのみ。 一 ◆ 現在(1) 最後の夜だった。 彼はしきりとワインを勧めた。きっと、酔わせたかったのだ。脳みそがぼうっとしているうちに、言いたくないセリフをすべて聞かせてしまおう――そういう魂胆だったのだ。 「千夏、きみには学業もある」 制服を押し着せられて、リボンで首を絞められる。あんな収容所の、どこが教育施設と呼べるだろう。 白ワインのグラスが照明を跳ね返していた。この渋くて酸っぱい液体は、ほんとうは今でも苦手。なんとか飲み干せるようになったのは、この男がいたから。 糊のきいたスーツに、しわの刻まれた手。左手の薬指にはリングが光っている。 「続けていくことは、きみのためにもならない。僕たちの関係は、お互いにとって不利益なものになってしまったんだ。分かるね」 まただ。 この「分かるね」というセリフを、何度聞かされただろう。親でも教師でもない、甘