号泣する準備は出来ていた。 この作品が現代劇であれば間違いなく泣いていただろうし、涙は美しく物語を彩り、彼女の評価を一層高めたかもしれない。だが、映画『柘榴坂の仇討』で広末涼子に与えられた役は、本懐を遂げることを文字通り、唯一の生きる目的とした男を献身的に支える武家の妻であり、演じながらどんなに心の内で感情が高ぶっても、涙を見せることは許されなかった。 「若松節朗監督からはいつも『泣くのは最後までとっておきなさい』と言われてました(苦笑)」。 感情を抑えて、抑えて、抑えつけることにより、スクリーンから伝わってくるものが確実にある。映画では初めてとなる時代劇は、広末涼子をまたひとつ、新しいステージへと導いた。 原作は、広末さんが10代で出演した映画『鉄道員(ぽっぽや)』の原作者でもある浅田次郎による短編で、文庫本でわずか38ページの小説。「桜田門外の変」で主君・井伊直弼を守ることが出来なかっ