私たちが生きている社会は、いったいどのような空気や風潮、あるいは雰囲気のうえに成り立っているのか……私たちはときおり、このような、大きく、茫漠とした問いを前に立ちすくんでしまうことがあります。 【写真】村上春樹さん こうした問いについて考えるためには、これまでの歴史のなかで、どのような思想がつむがれてきたのかを知ることが必要になります。 私たちがそうした知識にふれるうえでいまもっとも便利な書物が、『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』(松浦寿輝、沼野充義、田中純)です。タイトルのとおり、圧倒的な実績を誇る3人の研究者が、20世紀のさまざまな思想や文化のあり方について徹底的に討議した様子をまとめたもので、少し読むだけで、多くの知識が得られます。 たとえば、19世紀末から20世紀初頭にかけて生まれたきわめて重要な考え方として「無意識」と「精神分析」があります。人間には、自分でははっきりと認識