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ブックマーク / honz.jp (39)

  • 2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ

    2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめを紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽やかなエンターテイメントのように伝える著者の方たち、その裏側で悪戦苦闘を繰り広げていたであろう版元や翻訳者の皆さま。さらに読者へ届ける取次会社や書店員の皆さま、そしてHONZを愛してくださったすべての皆さま、当にありがとうございました。 サイトを閉じることになった理由に、明快なものは特にありません。こんなサイトがあったら

    2011-2024 この13年間における最高の一冊 - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2024/07/15
    終わるのは残念だなあ
  • 『五輪汚職』巨大イベントの裏で行われていたこと - HONZ

    「東京五輪の招致は、僕でなければできなかった」 東京五輪・パラリンピックが閉幕して1年後の2022年7月、男は若い記者にそう胸を張った。男の名は高橋治之。世界的な広告会社「電通」で専務まで務めた後、コンサルタント会社代表に転じ、東京招致委員会では「スペシャルアドバイザー」の肩書を持っていた。「スポーツビジネスの第一人者」との呼び声も高い人物だ。 「まず僕が数社へトップ外交を仕掛けた。その後に電通がほかのスポンサーを集めていった。大成功だった」 自慢話は止まらない。自身が理事を務めた東京大会組織委員会が、スポンサー68社から五輪史上最高額の3761億円もの協賛金を集めたことを誇らしげに語る。だが、彼はまだ知らない。この時、記者が所属する読売新聞社会部が、高橋が特定のスポンサー企業から巨額のカネを秘密裡に受け取っている事実をつかんでいたことを――。 東京地検特捜部もまた、高橋や電通への包囲網を

    『五輪汚職』巨大イベントの裏で行われていたこと - HONZ
  • 『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』競馬業界のタブーに挑む衝撃のルポルタージュ - HONZ

    2023年の有馬記念を制したのは前年の日ダービー馬「ドゥデュース」だった。騎乗の武豊に「千両役者ここにあり」とアナウンサーが叫ぶほど見事なレース運びだった。 このような中央競馬会の重賞レースに出走できる馬はごく一部だ。 競馬業界では毎年約7000頭のサラブレッドが生産され、一方では約6000頭が引退する。ではその引退馬はどこへ行ってしまうのか。 この話題は長らく競馬業界のタブーであった。種牡馬となったり乗馬クラブに引き取られたりするのはごく一部。多くが行方不明であることを知った著者は衝撃を受ける。 ペットショップなどで販売される犬やには終生飼養を目的とするマイクロチップ装着が義務付けられている。馬のそれはペット業界と違い、主に血統管理のためのものである。 だから引退後、肥育場に行く馬は名前や経歴などは破棄されマイクロチップも読み取らない。名無しの馬肉となる。 だがここ数年「引退競走馬」

    『セカンドキャリア 引退競走馬をめぐる旅』競馬業界のタブーに挑む衝撃のルポルタージュ - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2024/01/19
    『引退後、肥育場に行く馬は名前や経歴などは破棄されマイクロチップも読み取らない。名無しの馬肉となる』
  • 『八ヶ岳南麓から』山暮らしのリアル - HONZ

    これまでたくさんのやエッセイを書いてきた著者だが、意外にもプライベートな暮らしについては、ほとんど書いたことがないという。書はここ20年余りの二拠点生活について書かれた一冊だ。 著者は50代で八ヶ岳南麓に土地を買った。八ヶ岳には東麓と西麓もあるが(北側は霧ヶ峰へと続くため北麓はない)、東麓には夕陽がなく、西麓には朝日がない。一方、八ヶ岳南麓は年間日照時間が全国1、2位を争うほど日当たりが良いうえに、掘れば水が出ると言われるほど伏流水が豊かな土地だ。 そもそもは、定住している友人から「一夏、イギリスで過ごすから家が空く。借りて住まないか」と誘われたのがきっかけだった。都内の暑さに閉口していたこともあって、渡りに船と話に乗ったが、一夏過ごすうちにすっかりはまってしまい、夏の終わりには地元の不動産屋に飛び込んでいたという。 標高1000メートルに建てた山の家は、ツーバイフォーの輸入住宅で、で

    『八ヶ岳南麓から』山暮らしのリアル - HONZ
  • 面白すぎてヤバい!『イーロン・マスク』 - HONZ

    こんなに面白い伝記を読んだのは初めてかもしれない。「面白い」という言葉には、「ワクワクする」「興味深い」「楽しい」「目が離せない」「胸が熱くなる」「笑える」などいろいろなニュアンスが含まれるが、書にはそのすべてが詰まっている(実際、声をあげて笑った箇所もあった)。間違いなく今年を代表するノンフィクションだ。 イーロン・マスクを知らない人はおそらく少数派だろう。世界有数の起業家として、あるいは世界一の大金持ちとして、彼が次に挑む分野から下世話なゴシップに至るまで、その動向が話題にのぼらない日はない。そうした情報に日々触れていると、イーロン・マスクという人物をなんとなく知ったつもりになってしまう。むしろそういう人にこそ書をおススメしたい。 マスクテクノロジーによって人類の歴史を前進させてきた人物だ。電気自動車によって世界の自動車業界の地図を塗り替えたテスラ。民間が独自開発したロケットで初

    面白すぎてヤバい!『イーロン・マスク』 - HONZ
  • 『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方 - HONZ

    朝ドラで話題の植物学者、牧野富太郎は小学校中退である。授業が退屈すぎて自主退学したことはよく知られている。現代からみれば、牧野富太郎は「ギフテッド」だったのかもしれない。 書はギフテッドの実像に迫ったノンフィクションである。「ギフテッド」という言葉自体は社会に認知されつつあるが、その実態はほとんど知られていない。彼らの等身大の姿を伝える書は、才能とは何か、個性とは何かという問いを私たちに投げかける。読めば、ギフテッドに対する認識が180度変わるだろう。 「ギフテッド」と聞いて、どんな人を思い浮かべるだろうか。多くの人がイメージするのは、「桁外れの天才」かもしれない。人並み外れた頭脳を持つ天才、例えばアインシュタインのような人物のイメージである。 書でまず驚くのは、ギフテッドが決して珍しい存在ではないということだ。海外の研究では、ギフテッドは様々な才能の領域で3~10%程度いるとされる

    『ギフテッドの光と影』突出した才能との向き合い方 - HONZ
  • 『ピッツァ職人』ナポリピッツァで人生が変わった! - HONZ

    書は魅力的な「問い」からはじまる。 若きピッツァ職人を取材していた時のこと。著者は職人の言葉にちょっとしたショックを受けた。 「僕、高校に行っていないんですよ。十六の時にナポリピッツァをべて感動して、十七から東京のピッツェリアで働いて、十八でナポリに行ったので」 学校に毎日通うのが当たり前だった者からすれば疑問に思う。高校に行けない事情があったわけではなく、人いわく「いたって普通の学生」だったという。それが「ピッツァをべた感動」ひとつで、人生の方向を決めるなんてことがあるのだろうか。一方で、清々しさもおぼえていた。それは、「学校に行かない選択肢だってある」という発見がもたらした、視界が開けたような感覚だったのかもしれない。 ピッツァ職人の名は、中村拓巳。世界大会で上位入賞するほどの腕前を持つ、1985年生まれのこの若者こそが、書の主人公である。 未成年で、しかもアジア系の男子がひ

    『ピッツァ職人』ナポリピッツァで人生が変わった! - HONZ
  • 『ルポ ゲーム条例』報道の最前線は地方にある - HONZ

    は「課題先進国」と言われるが、この言葉はいささか焦点がぼやけている。なぜなら、国の課題や社会のひずみは、まず地方にこそ現れるからだ。課題を先取りしているのは国よりもむしろ地方である。 地方はまたジャーナリズムの先進地域でもある。中央のマスコミがくだらないプライドの上にあぐらをかいている間に、彼らは最先端の課題と格闘してきた。だから骨太の報道は、しばしば地方から現れる。 書は、地方議会で成立したひとつの条例を地元放送局の記者が約3年にわたり追いかけた記録である。地方に現れたおかしな兆候にいち早く気づき、仔細に検証することで、社会全体に共通する問題点を浮き彫りにすることは、地域に根ざした記者にしかできない。社会の深刻な課題と地方メディアの矜持。その両方を知ることができる好著だ。 2020年3月18日、香川県議会で全国初の条例が可決、成立した。 その名は「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例

    『ルポ ゲーム条例』報道の最前線は地方にある - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2023/05/12
    『たとえ一部の人間の企みによって何かが決まったとしても、決して手遅れではない。本書が良い例だ。著者の本格的な取材は条例制定後に始められたにもかかわらず、実際に運用面での改善につながる成果をあげている』
  • 『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ

    読むのにとても時間がかかったのは、著者が巨大な問いと格闘しているからかもしれない。戦後最悪ともされる凶悪事件を通して、私たちの社会の奥底で起きている変化をとらえた力作だ。 書は、神奈川県相模原市の障害者施設、津久井やまゆり園で、入所者と職員45名が殺傷された事件の深層に迫ったノンフィクションである。事件そのものを取材したは他にもあるが、書が類書と一線を画すのは、サブタイトルにある「戦争と福祉と優生思想」という視点だ。一見バラバラな3つの言葉は実は深いところでつながっている。それだけではない。著者の人生もまたこの事件と無関係ではなかった。 ノンフィクションのディープな読者は著者の名前に見覚えがあるかもしれない。著者には浅草で起きた短大生殺人事件に関する著作(『自閉症裁判 レッサーパンダ男の罪と罰』)がある。2001年、浅草で19歳の女性が見ず知らずの男に刺し殺されたこの事件は、男がレッ

    『津久井やまゆり園「優生テロ事件」、その深層とその後』異常な犯罪者は異常な社会から生まれる - HONZ
  • 『香川にモスクができるまで』在日ムスリムの素顔 - HONZ

    読書に付箋は欠かせない。知らなかったこと、驚いたところ、心を動かされた箇所に貼っていく。内容に引き込まれるほどその数は増える。このにもびっしり付箋がついた。初めて知ることがあまりに多かったからだ。初めて知ったこと。それは、在日ムスリムの素顔である。 世界には19億人を超えるムスリムがいるという。このうち在日ムスリムは推計18万3千人(2019年末時点)。世界のムスリム人口からすれば決して多くはない。身近にムスリムの友人がいる日人はそれほど多くないだろう。 他方、ネットにはイスラム教に対する偏ったイメージが溢れている。厳しい戒律、極端な女性蔑視、過激派による自爆テロ。「絶対にわかりあえない怖い人々」として彼らは扱われている。 リアルな姿を知らないにもかかわらず、良くない印象だけは刷り込まれている。ムスリムに対する世間の認識はそんなレベルではないだろうか。 著者は国内外のマイノリティーのコ

    『香川にモスクができるまで』在日ムスリムの素顔 - HONZ
  • 『東京医大「不正入試」事件』特捜検察のシナリオ捜査が父と息子の人生を狂わせた - HONZ

    人の記憶にはバイアスがある。「文部科学省汚職事件」と総称される一連の出来事の中で人々の記憶に今も残るのは、おそらく東京医科大学医学部医学科で行われていた不正入試のほうではないか。 東京医大は一般入試で、女子受験生や4浪以上の男子受験生に差別的な扱いをしていた。3浪までの男子受験生に一定の点数を加える優遇装置を講じていたほか、OBの子供など縁故受験生にも寄付金の額などを条件に適宜加点していた。 その後、文科省による実態調査で、東京医大だけでなく複数の大学でも不正な選抜が行われていたことが発覚した。特に女子受験生への差別的な扱いはメディアにも大きく取り上げられ、社会問題になった。元受験生たちが集団で大学を訴える損害賠償請求訴訟が各地で起き、裁判所が大学側の不法行為を認め、原告らに対する損害賠償を命じたことも記憶に新しい。 その一方で、一連の不正入試が明るみ出るきっかけとなった事件のほうは、世間

    『東京医大「不正入試」事件』特捜検察のシナリオ捜査が父と息子の人生を狂わせた - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2023/02/14
    『本書の中で繰り返し著者が強調していることがある。それは、佐野の次男が自力で合格していたという事実だ』『だが、初公判までにこうした事実を正しく報じた司法記者クラブ所属のメディアは皆無だった』
  • 『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ - HONZ

    「行旅死亡人」とは病気や行き倒れ、自殺等で亡くなった身元不明の死者を表す法律用語である。死亡人は身体的特徴や発見時の状況を官報に公告される。 映画やミステリー小説でも良く登場する”誰かわからない”遺体。その身元を新聞記者が突き止める過程を記したのが『ある行旅死亡人の物語』だ。 共同通信大阪社会部の遊軍記者、武田惇志は記事のネタ探しのため官報に掲載されている「行旅死亡人」のサイトを閲覧していた。そこで目に留まったのが亡くなったときの「所持金ランキング」。一位は尼崎市の自宅アパート玄関先で発見された七十代と思しき女性で、なんと現金で約3500万を持っており、さらに右手の指が全て欠けていたという。すでに火葬され遺骨は尼崎市が保管していた。 発見から一年以上経っていたが、続報は見つからない。市の保健福祉センターに問い合わせると、こんな答えが返ってきた。 「タナカチヅコさんの件ですね」 この人は生前

    『ある行旅死亡人の物語』あなたは誰?身元をたどる渾身のルポルタージュ - HONZ
  • 『人生はそれでも続く』22人の「時の人」のその後を追う調査報道 - HONZ

    我々は連日のニュースの多くを娯楽として消費している。事件・事故・災害に憂い悲しみ、スポーツ選手の活躍に喜び、可愛らしい動物の映像に癒やされ、職場や飲み会、SNSにて好き勝手に意見感想を述べる。そして時が経つにつれてあっさり忘れられ、次の話題に移っていく。 しかし、当然ながらどのようなニュースにも当事者がおり、彼らの人生もまた同じように続いている。 あれから、あの人はどうなったのだろう。 そうした着眼から始まったのが、読売新聞朝刊の連載人物企画「あれから」である。2020年2月から月一回のペースで載り、現在も続いている。書は、今年2022年3月までに取り上げられた「時の人」22人のその後をつまびらかにしたノンフィクションだ。巻末に取材を担当した記者たちのプロフィールが載っているが、ほとんどが20~40代の若手である。中には自分が生まれる前のニュースを追う記者もおり、ちょっと驚かされる。 連

    『人生はそれでも続く』22人の「時の人」のその後を追う調査報道 - HONZ
  • 『朝日新聞政治部』未来をつかみそこねた新聞社の話 - HONZ

    スタジオジブリが出している『熱風』という小冊子に、ジャーナリストの青木理さんが聞き手をつとめる「日人と戦後70年」という連載がある。ここに2021年8月号と9月号にわたり著者との対談が掲載された。 一読して驚いた。朝日新聞が生き残りをかけて調査報道を新たな看板に据えようとしていたこと、そのチャレンジが経営陣によって潰されたことが、生々しく語られていたからだ。 海外では調査報道に活路を見出した新聞社の例もある。朝日の狙いは間違っていなかったはずだ。にもかかわらずせっかくのチャンスを自らの手で潰したとはどういうことか。もっと詳しく知りたいと思っていた。 その経緯を詳らかにした一冊がついに出版された。しかも当事者の著者自身によるノンフィクションである。優秀な記者が関係者はすべて実名で朝日新聞の内幕を明かしているのだ。これほど迫力ある内部告発があるだろうか。大新聞中枢の権力闘争、政権与党からの攻

    『朝日新聞政治部』未来をつかみそこねた新聞社の話 - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2022/06/20
    『ネット言論の影響力はいまや既存メディアをしのぐが、その内実は、百家争鳴的な「声のデカさ」に過ぎない。いくらネットの影響力が増そうとも、事実を最初に掘り起こす記者の仕事は決してなくならない』▼そらそう
  • 『最後の角川春樹』角川文化を生み出した “メチャクチャ”な出版人 - HONZ

    「あんなに有名な会社の社長がコカインを密輸して捕まるなんて。日の大人は薬物まみれなのかもしれない」。1993年夏、世間知らずの12歳の私は角川春樹の「コカイン密輸事件」に衝撃を覚え、妄想を膨らませ続けていた。その1週間ほど前に角川が監督した映画『REX 恐竜物語』を見たばかりだった。一緒に見た友人は「社長だけど映画監督でもあるから薬物くらいやっていてもおかしくないだろ」と妙にませた発言をしていたが。 文庫ブームの仕掛け人、映画界の風雲児、俳人、宗教家。角川にはいろいろな「顔」がある。近年は、6回の結婚歴や木刀を1日3万回以上も振ったエピソード、預言者を自認したスピリチュアルな言動など、私生活が注目されることも多い。むしろ、そのような側面しか知らない世代もいるはずだ。書は、そうした顔はもちろん記しているが、これまで見落とされがちだった出版人としての角川の姿を浮き彫りにしている。 父親が創

    『最後の角川春樹』角川文化を生み出した “メチャクチャ”な出版人 - HONZ
    mizukemuri
    mizukemuri 2022/01/29
    『無名の新人作家の作品にもかかわらず、初めから5万部』『角川は「五千部ずつ、『初版』『二刷』『三刷』……と奥付表記を変えましてね。それをいっぺんに印刷した』▼…うわぁ…
  • 保健所の「コロナ戦記」TOKYO2020-2021 - HONZ

    混乱の記録である。同時にきわめて貴重な記録でもある。人類の歴史に残る新型コロナウイルスとの闘い。その最前線で何が起きていたのかが書で初めて明らかになった。 著者は保健所と東京都庁の感染症対策部門の課長として、新型コロナ対策の第一線で指揮をとった公衆衛生医師である。メモ魔を自認する著者の記録は詳細をきわめる。保健所の苦境は報道などを通じ多少は知っているつもりだったが、現場の状況は巷間伝えられているよりもずっとひどかった。都の1日の新規陽性者が5千人を超えた昨年8月、彼らはついに絶望の淵に立たされてしまう。よく持ちこたえたものだと思う。読みながら何度も背筋が寒くなった。 なぜ保健所は追いつめられてしまったのか。保健所は行政サービスと医療サービスのいわば中間にある組織だ。著者はこれを川と海のはざまの汽水域にたとえる。来なら中間的な立場だからこそ医療機関や行政の目の届かないところをきめ細かくフ

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  • 『金融庁戦記』「霞が関のジローラモ」の事件簿 - HONZ

    書の主人公は、「霞が関のジローラモ」と呼ばれた異色の官僚である。 ジムで鍛えた厚い胸板の上に派手なストライプ柄やカラフルな色のシャツをまとい、ピンクやパープルなどのネクタイを締める。肌は赤銅色に焼け、髪型は側頭部を短く刈り、頭頂部にふくらみをもたせたソフトモヒカンのようなスタイル。官僚のイメージからおよそかけ離れた外見のこの人物を、いつしか人々はイタリア人タレント、パンツェッタ・ジローラモになぞらえた渾名で呼ぶようになった。 ただし家がいつも女性と一緒に雑誌の表紙におさまっていたのに対し、「霞が関のジローラモ」こと佐々木清隆氏はそんな色っぽさとは無縁だ。彼はいつも「事件」の傍にいた。それも特殊な事件である。カネボウ、オリンパス、ライブドア、村上ファンド、AIJ投資顧問、東芝、仮想通貨。佐々木氏は、企業監視官としてバブル崩壊後に続発した数々の経済事件を間近で見てきた人物なのだ。書は企業

    『金融庁戦記』「霞が関のジローラモ」の事件簿 - HONZ
  • 天才的科学者の華麗なる研究『猫が30歳まで生きる日』 - HONZ

    世の中に好きが多いのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。の腎臓病の治療薬開発をめざす東大のクラウドファンディングに1カ月で約1億7600万円もの寄付が集まったというのだ。大口の寄付もあるだろうけれど、申し込み件数が約1万3400というのもすごい(朝日新聞より)。 その開発者である東京大学大学院医学系研究科の宮崎徹教授が自ら書かれたである。鍵となるタンパク質「AIM」がどうしての腎臓病の治療に使うことができるのか、その発見と研究の経緯が、詳しく、そして、ものすごくわかりやすく書かれている。 この手のはあまり売れないと相場が決まっているのだが(←個人のイメージです)、版を重ねてすでに1万部以上売れているという。言ってはなんだが、ヒトの腎臓病の画期的治療法についてのでもそんなには売れないような気がする。 研究者としての経歴も紹介されているが、その俊才ぶりはずいぶんと以前から

    天才的科学者の華麗なる研究『猫が30歳まで生きる日』 - HONZ
  • 『保身 積水ハウス、クーデターの深層』変われないこの国を描く骨太の経済ルポ - HONZ

    読み終えた途端、深いため息が出た。かつて「全員悪人」というキャッチコピーの映画があったが、さしずめ書は「登場人物、全員小物」といったところだ。だが、小物ばかり出てくるのにページをめくる手が止まらない。それはこの小物が私の中にも棲んでいるからかもしれない。このにはまぎれもなく私たちの姿が描かれている。 そのクーデターが起きたのは、2018年1月24日のことだった。住宅メーカーのリーディングカンパニー積水ハウスの取締役会で、会長職にあった和田勇が、社長の阿部俊則が提出した動議によって事実上の解任に追い込まれたのだ。 これは実に奇妙なクーデターだった。取締役会に先立つ2017年6月、積水ハウスは地面師詐欺に遭い、55億5900万円を騙し取られていた。事件をきっかけに立ち上げられた調査対策委員会は、経緯をつぶさに検証した結果、来「騙されるはずがなかった事件」だとして、社長の阿部に経営上の重い

    『保身 積水ハウス、クーデターの深層』変われないこの国を描く骨太の経済ルポ - HONZ
  • 『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ

    何か不測の事態を前にすると、読みの習性でついに手が伸びてしまう。 中国・武漢で発生した原因不明の肺炎に世間が注目し始めた頃、読み直さねばと書棚からひっぱり出したのは、『パンデミックとたたかう』というだった。 このは、SF作家の瀬名秀明氏が東北大学医学系研究科教授(当時)の押谷仁氏と新型インフルエンザについて議論を交わしたものだ。2009年に出ただが、押谷氏の発言に教えられるところが多く、その名が強く印象に残っていた。 付箋を貼っていたところをいくつか抜き出してみる。 「感染症の危機管理の基は、わからないなかで決断をしなくてはいけないことです。その最終的な判断は、やはり政治家がすべきだと私は思います」 「ウイルス性肺炎は、現代の医療現場でも、治療するのが非常に厳しい肺炎です」 「重症者が多発した場合の治療の課題は、医療体制の問題として、日はICUのベッドや人工呼吸器が限られてい

    『分水嶺』専門家たちの葛藤を描いた傑作ノンフィクション - HONZ