チェット・ベイカーの音楽の良さを彼を取り巻くロマンティックな神話から切り離して語るのは難しい。彼は1950年代初頭に陽の出る勢いでスターになった。その理由はトランペット演奏のエレガントなスタイルとリズミカルな優美さに負うところが大きかったが、それだけではない。彼がハンサムな容貌の持ち主だったことも、後押しになったことは間違いない。 さらにほかのどの歌手とも異なる儚げな声でヴォーカルを歌い始めると、彼は誰もが知る有名人になり、女の子の部屋にポスターが貼られるほどの人気を得た。それは、ジャズ界では実にめずらしいことだった。 <関連記事> ・観客を魅了したシンガー/トランペッター、チェット・ベイカーの栄枯盛衰 ・マイルスでさえ動揺を隠せなかった「フリー・ジャズ」の誕生と存在意義 その経歴 ベイカーは幼少期をオクラホマ州で過ごし、思春期になると家族と共に南カリフォルニアに移り住んだ。1952年には