カクヨム 六 カクヨム kakuyomu.jp 六 僕と凪がまだ出会っていない同じ年の三月。気象台からタンポポの開花がひっそりと発表された下旬に、僕は師匠と出水と梅田のクラブにいた。クラブとは大音量で音楽が流れ、若い男女が踊る方のクラブであって、女性が隣に着座してお酒を作る方のクラブではない。ダンスチューンのベタといえるアバのヒット曲が会話の妨げになるほどの音量で鳴っていた。ここではニルヴァーナは流れない。 師匠は大学の同級生であり、卒業後、国のとある省庁に国家公務員二種として務める男であり、僕と出水のナンパの師匠だった。 国家公務員然としない茶髪のロングヘアーを掻き上げながら師匠は説く。 「今は物騒な時代やからこんな、さあナンパしなさいというような箱でしかナンパできひんけど、大学時代は」 僕は同じ大学の師匠と大学時代の付き合いはなかったが、共通の友人の伝手で卒業後に出会ったのだ。 「近所