片渕須直(かたぶち・すなお) 1960年大阪生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。宮崎駿監督が参加した日伊合作のTVアニメーション・シリーズ「名探偵ホームズ」で、脚本、演出補。89年の宮崎駿監督作品「魔女の宅急便」でも演出補を務める。96年の世界名作劇場「名犬ラッシー」では監督。2001年、劇場アニメ作品「アリーテ姫」では監督・脚本。同年にゲーム作品「エースコンバット04 シャッタードスカイ」にムービーパート監督・脚本として参加。06年のTVアニメ・シリーズ「BLACK LAGOON」では監督・シリーズ構成・脚本を担当。その他、数々のアニメーション作品に携わる。 片渕 劇場でオジサンが泣く、という話は僕のところでもよく聞きます。正直言って、ここまであちこちの場面でみんなが泣くとは思わなかった。なんでもないようなシーンですら泣いている人がいて、ちょっと予想を上回りました。 ―― 映画を見る前
漫画家の水木しげるさんが亡くなられた。 はじめにお断りしておくが、私は、水木マンガの熱心な読者ではない。それ以前に、マンガというジャンル全般に対して、不案内でもある。 同世代の出版業界人の標準からすれば、「あきれるほどマンガを読んでいない人間」に分類されるはずだ。 なので、この分野にはなるべく口を出さないようにつとめてきた。 これまでに何度か思いつきを口走って痛い目を見ている。 なんというのか、マンガに詳しい人たちから見ると、読み齧りの素人がいきなりきいたふうな口をきくことは、しみじみと腹の立つ出来事であるようなのだ。気持はわからなくもない。おそらく、問題は、私の論評が当たっているかどうかではなくて、冒頭の3ページぐらいのところを読んで、いきなり感想を述べはじめる軽薄さがしゃくにさわるのだと思う。 「火の鳥ってさ」 「お前、全巻読んだのか?」 「ん? 全巻って、そんなに何冊もあったっけ?」
11月のメディア各社の世論調査が出揃った。 結果を見ると、内閣支持率については、どこの社が調べた数字を見ても、一様に上昇していることがわかる。 設問に使われている文言に微妙な違いがあるからなのか、あるいは、回答者が調査元の名前を意識してその都度態度を変えるからなのか、毎回、この種の世論調査の結果は、会社ごとに異同がある。 とはいえ、はじめからある程度のバイアスがあることを差し引いて数字を見比べてみると、変化の傾向そのものは、どこの社のものを見ても、ほぼ一致している。つまり、内閣支持率は8月を底に回復に転じており、特に11月上旬に実施した調査を見ると、どこのものを見ても前月分に比べて1%から4%程度上昇している。 各社の調査結果間に見られる食い違いは、当稿の主題とは別の話になる。興味深い話題ではあるが、ここでは掘り下げない。 今回、各社の調査の中で共通している傾向、すなわち「安倍政権の支持率
3月に骨折した右足は順調に回復している。 レントゲン写真を見ると、関節内の陥没していた部分の骨も、ほぼ元に戻っている。 あとは、関節の可動域が拡大して、膝周りの筋力がつけば、以前と同じように自在に走れるようになるはずだ。 現状では、まだそこまでは行かない。 痛みは無い。 関節の柔軟性も、正座は無理なものの、あぐらはかけるようになったし、日常生活には不自由しない程度までには回復している。 10月からは自転車にも乗れるようになった。 乗り降りの際に若干の不自由(←またがってからでないと走り出せません)はあるものの、ペダルを踏んで走ることに関しては、骨折以前とまったく変わらない。長距離にも対応できる。自転車は、患部に大きな負担をかけずに運動できるので、助かっている。 膝周りの筋力は、十分に回復していない。 靭帯が断裂していることもあって、安定性も怪しい。 なので、まだ走ることはできない。 階段の
第3次安倍改造内閣が発足して間もない10月10日、石井啓一国土交通相は、就任にあたって行われた報道各社とのインタビューの中で、次のように述べた。 「少子化対策のために、祖父母・親・子供の三世代の同居などを促進する住宅政策について早期に実施が可能なものは着手したい」 奇妙なプランだ。少なくとも、公明党選出の新任の国交相がいきなり持ち出してくるような話ではない。 果たして、アイディアの出どころは安倍晋三首相だった。 石井大臣は、同じ会見の中で 「安倍総理大臣からは、希望出生率1.8の実現を目指し大家族で支え合うことを支援するため祖父母・親・子供の三世代が同居したり近くに住んだりすることを促進するような住宅政策を検討・実施するよう指示があった」 と明かしている。 なるほど、そういうことだったのか。 と一応納得はしたものの、まさか、少子化対策として三世代同居を推し進めるみたいな住宅政策が、本当に実
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)について、ややこしいニュースが流れてきている。 いくつかのメディアが報道しているところによれば、ユネスコは、このほど、中国が申請していた「南京大虐殺の記録」を世界記憶遺産(Memory of the World)に登録したというのだ。 事態を受けて、菅義偉官房長官は、10月12日に出演した民放の番組の中で、ユネスコに拠出している拠出金について「政府として停止、削減を含めて検討している」と表明した(こちら)。 「ユネスコ」は、私の世代の者にとって特別な価値を持った名前だ。個人的には、「国連」そのものよりもありがたみが大きい。 というのも、高度成長期の東京近郊に生まれ育った人間は、小学生の時代に遠足などの機会を通じて、埼玉県所沢市にあった「ユネスコ村」を訪れた経験を持っているはずだからだ。 ユネスコ村は、1951年に日本がユネスコに加盟したことを記念して開演
5月から日本人3人が“スパイ容疑”で中国当局に逮捕されているという。私は日本政府が「スパイ活動をしていない」と言う言葉を信じよう。容疑者たちが中国当局に関与を認めているという「公安調査庁」自体、“インテリジェンス機関”と呼ぶに値する情報収集活動・能力はないと思っているので、この逮捕は誤認逮捕、あるいは冤罪逮捕だと見ている。日本政府は、誤認逮捕であると主張し、自白は強要されたものだとして、彼らの身柄の返還要求の交渉を続けてほしい。 習近平政権、“外国人スパイ”に敏感に この事件を受けて、知人から「あなたも気を付けてね」と冗談のような本気のような声をかけられるが、実際、気を付けなければならないと自覚している。逮捕容疑には、「軍事施設周辺の撮影」などがあるが、これは結構やりがちだ。中国の軍事管制区というのは、別に鉄条網で区切られている場所だけではないし、うっかり入ってしまうことはよくあるし、知ら
10月1日を期して、防衛庁の外局として「防衛装備庁」という新たな役所が発足することが、15日の閣議で決定したのだそうだ。 《1800人体制で防衛装備品の研究開発や調達、輸出を一元的に管理し、コストの削減を図る。自衛隊の部隊運用業務は自衛官中心の統合幕僚監部に集約し、内部部局の運用企画局は廃止する。中谷防衛相は記者会見で「新たな組織の下で、防衛省・自衛隊がより能力を発揮し、適切に任務を遂行できるようになる」と語った。》 と、読売新聞は書いている(こちら)。 なるほど。 不意打ちを食らった気がしているのは、単に私の現状認識が甘かったということなのであろう。 思えば、つい1週間ほど前、日本経済団体連合会(経団連)が、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表したというニュースが伝えられたばかりだった。 経団連がまとめた「提言」の具体的な内容は、こちらで読める(「防衛
安倍晋三首相のいわゆる「戦後70年談話」を題材に原稿を書く仕事は、すでに間抜けな作業に変貌しつつある。 なぜなら、談話発表からほぼ1週間を経て、左右両陣営の論客ならびに有識者諸氏の口の端から、ひと通りの「解釈」が出揃っているからだ。それゆえ「談話」の読み解き方について、新たに付け加えるべき論点は、ほとんど残っていない。ということは、このタイミングでいまさら私が何を言ったところで、誰かの受け売りだと思われるのがせいぜいだということでもある。 なので、この原稿では、あれこれと「解釈」する書き方とは別の方法を採用したいと思っている。 談話発表以来、様々な立場の人々のコメントを読み比べながら、私が一番強く感じたのは、21世紀の人間である私たちが「解釈」という病にとりつかれているということだった。 どうして、われわれは、行間を読み、空気を読み、裏を読み、背景を読み、影響を読みたがるのだろう。 なにゆ
新国立競技場の計画案は、白紙撤回されることになった。 近来にないグッドニュースだと思う。 とはいえ、積極的に良いことがはじまったわけではない。何か意義ある仕事が達成されたわけでもない。単に、最悪の事態を避けるための道筋が定まったということにすぎない。 つまり、このたびの白紙撤回の決断が、歓迎すべき展開であることは確かなのだとして、だからといって、この決断を誰かの手柄や功績として手放しで賞賛するわけには行かないということだ。 むしろ、この期に及んで白紙撤回というリスキーな決断をせねばならないところにわれわれを追い込んだ人間なり組織なりの名前を明らかにして、その彼らに責任を取ってもらわなければならない。そうでないとスジが通らない。 大勢の人間がひとつの決断に沿って行動する時には、その決断が誤りであった場合に責めを負うことになる人間を、あらかじめ確定しておかなければならない。 昔の船乗りは、船が
相撲については、もう、何も書かないつもりでいた。 理由は、何をどう書いても、当コーナーでこれまでに何回か訴えてきた内容と重複するに違いないと考えたからだ。それほど、大相撲の世界は外部からの批評に対して耳を閉ざしている。 何を言ったところで何も変わらない。だから何も言いたくない、と、そう考えたわけだ。 見放したという受け止め方をしてもらっても良い。 今回、重複する内容になることをある程度覚悟した上であらためて白鵬の舌禍事件をめぐる反応について原稿を書く気持ちになったのは、この度の一連の出来事への日本相撲協会およびそれを取り巻くスポーツジャーナリズムの頑迷固陋な振る舞い方が、ここ数年の日本の政権の中枢に見られる特徴的なマナー(一部から「歴史修正主義的」と呼ばれ、「復古的」「強権的」と評されている態度)と、深いところでつながっているように思えてきたからだ。 もしかしたら、相撲ファンの声援の中に目
埼玉県所沢市の住民投票が話題になっている。 経緯を振り返っておく。 所沢市は、航空自衛隊入間基地(狭山、入間両市)に隣接している。場所によっては、学校の上空が自衛隊の航空機の飛行コースにすっぽり入ってしまう。 そこで、市では、平成18年(2006年)、防衛省の補助金で建設された29小中学校の防音校舎に、暖房設備交換に合わせて計画的に冷房設備を整備する方針を表明し、うち1校については23年までに工事を完了した。 ところが、平成23年(2011年)10月に就任した藤本正人現市長が、東日本大震災を経験したことを踏まえ、便利さや快適さ指向からの転換をすべきとの理由からエアコン設置の方針を撤回し、計画を白紙に戻す。 で、その市長の決定から3年余りを経たこの2月15日に、28小中学校の防音校舎へのエアコン設置の是非を問う住民投票が実施された(以上の経緯はこちらから)。 投票の結果は、「賛成」が5万69
サッカーの日本代表監督だったハビエル・アギーレさんが解任されて以来、サッカーの世界では、後任監督をめぐる話題が行ったり来たりしている。 この件(代表監督の選任)についての私の意見は、5年前(←南アフリカW杯の直前のタイミング)の当欄で既に書いている。 つまり 「代表監督は、外国人でさえあればある程度誰でも良い」 ということだ。 この見解は、いま現在でも基本的には変わっていない。 理由は、リンク先を読みに行ってもらえばおわかりになっていただけると思う。が、なにぶん古い原稿でもあるので、補足も含めて、あらためて概要を以下に書き起こしておく。 日本人のサッカー選手(ならびに日本人全般)について毎度のように言われる「没個性」「事なかれ主義」「リスク回避傾向」「横並び志向」といったアンチサッカー的な諸傾向は、実は、われら日本人の「国民性」の問題というよりは、わたくしども日本人が集団として振る舞う時の
格差解消の処方箋として「富裕層の資産や所得に対する累進課税」などを提唱し、一世を風靡した仏パリ経済学校のトマ・ピケティ教授。1月末に来日するや連日の講演や取材に追われ、「経済学界のロックスター」とも称される人気ぶりを見せつけた。伝統的な経済理論を身に付けたトップクラスの経済学者でありながら、20世紀フランス現代歴史学のアナール派における巨匠リュシアン・フェーヴルやフェルナン・ブローデルらの思想を受け継ぐ、フランス流エリートだ。 アナール派は、民衆の文化生活や経済などの社会的背景を重視、歴史を言語学、経済学、統計学、地理学など他の学問の知見を取り入れながら分析し、歴史学に革命を起こした学派だ。それまでの歴史研究で主流だった、政治史や事件史、人物の研究が中心になる手法とは異なり、おびただしい数の数値や事実を集め、地球的な規模で学際的な分析を重視する。 ピケティ教授はそうしたフランス発の手法を、
先週に引き続いてシリアで起こった人質殺害事件について書く。 事件自体は、いわゆる「イスラム国」(←以下、単に「ISIL」と表記します)に拘束されていた日本人(湯川遥菜氏と後藤健二氏)のどちらも殺害されるという、非常に痛ましい形で一段落している。 どうしてこういう事件が起こったのかについては、まだわからないことが多い。 というよりも、この種の、常識から隔絶した出来事は、われわれのような平和な世界で暮らす人間には、どう頑張ってみたところで、完全には理解できないものなのかもしれない。 事件勃発後の政府の対応が適切だったのかどうかについても、現時点では判断できない部分が大きい。 なので、このテキストでは、それらの点には触れない。 念のために書いておくが、私は 「事件に関連して政権批判をすることは、結果としてテロリストを利することになる」 という、事件発生以来繰り返し言われているお話には、半分程度し
朝日新聞が池上彰さんの連載コラムを掲載拒否したことを発端に起こった騒ぎは、2日ほどでなんとなく落着した。 まだ決着はついていないと言う人もいるだろうし、収束させたくない人たちもいると思う。 収束とか決着とかそういうことではなくて、問題になっているのは朝日新聞の体質なのだからして、この話は朝日新聞を廃刊に追い込むまでは終わらないのだ、とそういうふうに考えている方々もいるはずだ。 私は、単純に、バカな話だと思っている。 一見、この出来事は、表現の自由をめぐるやりとりであるかに見える。「言論封殺」に関連した重大事件であるようにも見える。 まあ、部分的には表現の自由にかかわってもいるのだろうし、言論封殺と言えば言えるかもしれない。 でも、私は、それ以前の問題だと考えている。 つまりこれは、ジャーナリズムがどうしたとか、社会の木鐸がハチのアタマだとかいった話題である以上に、組織人の事なかれ主義と縄張
韓国が対米関係の悪化を心配し始めた。急速な中国接近によって同盟国から疑いの目で見られていることを、やっと自覚したのだ。 変わり身早い「現代の両班」たち 前回は、米中等距離外交を主張していた論壇の大物が、自説を取り下げ「やはり米国が大事だ」と言い始めた、という話でした。たった1年強の間の変化です。変わり身の早さには驚きました。 鈴置:「二股外交」の勧進元、朝鮮日報の金大中(キム・デジュン)顧問のことですね。この人だけではありません。 中国の重要性を説き「米国一辺倒では駄目だ」と主張していた人たちが、相次いで「中国一辺倒を見直そう」と言い出しました。 中央日報の金永煕(キム・ヨンヒ)国際問題大記者は7月11日に「習近平式『中国の夢』を警戒する」(日本語版)を書きました。骨子は以下です。 ヘビとウサギ 韓中の蜜月を警戒する人は現在の韓中関係を、大きな青大将がウサギの腰に巻きついている姿と同じと皮
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