おそらくは「人間」の切り刻みを何より最も得意とするこのスプラッター哲学者の新刊『開かれ──人間と動物』(平凡社)は、各章のどれもが5〜6頁ほどの断章群から成り立つ全20章の「小さな本」であり、たとえば周到に検討したプランをもとに時間をかけて丹念に書き込まれた書物などというよりは、老練の職人がテーマに沿った素早い身振りでサッと仕上げてみせた名人芸のそれに近い。したがって、この哲学者の思想に接近したいと思う者にとっては、まさにうってつけの入門書となるものであるだろう。だが一方でそれは、独自のテーマ群に基づきながら、熟練した者だけに可能のアクロバティックな芸の披瀝のようにもみえ、よってその真意を理解するにあたっては、読者においてもおのずと読解の作法が求められているともいえそうだ。 本書は、人間と動物(人間であらざるもの)とを分節し隔てる「分割線」の政治的機能とその歴史という著者の新たな着想を著