高校生の頃、下北沢のタイ料理店で食べた「ココナッツカレー」は未だ訪れたことのないバンコクの街を思い描かせた。 コリアンダー、レモングラス、コブミカン、ココナッツ、赤唐辛子。 汗が溢れ出るほどに騒々しい辛さの中にもエキゾチックな甘さや爽やかなフレーバーが漂っている。 一般的なカレーライスの経験しかない僕にとって、それはとても衝撃的な出来事だった。 大学生の時分、裏原宿で食べた「カフェのカレー」は少し澄ました東京そのものだった。 丁寧に作られたそのカレーは、見え隠れするホールスパイスのせいか、香りがとても洒落ている。 ライスとカレーの境界線上には色とりどりの揚げ野菜とフレッシュハーブがトッピングされている。 小さい鍋で温めながら水分が飛んで縁が焦げ始めたような香りも新鮮だ。 こんなにきれいでおいしそうなカレーライスはそれまで見たことがなかった。 社会人になってからしばらくの間、僕は西葛西に住ん