出場32カ国の中でも、チリの攻撃サッカーは異彩を放つ。 その指揮官ビエルサも、今大会最も特異な監督の1人だろう。 奇人の熱に煽られ、赤い旋風が起きようとしている。 2008年10月16日。チリの首都サンティアゴ発アルゼンチン・コルドバ行きのフライトで、飛行機が着陸態勢に入る直前、機長からアナウンスがあった。 「これから機体はゆっくりと下降して行きます。到着地コルドバの天気は曇り……」 お決まりの台詞に耳を傾けている乗客は少ない。だがやがて、機長の声のトーンが興奮気味にやや高くなったとき、誰もが注意を引かれずにはいられなかった。 「そして、今日のこのフライトにご搭乗の特別なお客様、マルセロ・ビエルサに挨拶をしないわけにはいきません。チリのサッカーを立て直し、我々に栄誉を与えてくれたマルセロ、本当にありがとう」 機長は、前夜に祖国チリの代表が成し遂げた快挙に、身も心も感激に浸っていた。恥ずかし