自分を偽ってでも誰かに認められたい「承認欲求」 ──『君が手にするはずだった黄金について』は、「僕」=小川哲を主人公とした連作形式の短編集。80億円を運用しインスタグラムに羽振りの良い暮らしぶりをアップするトレーダーの旧友や、偽物とおぼしきロレックスのデイトナを腕に巻く漫画家など、人に認められたいがために本来の自分を偽る、承認欲求にとらわれた人々との遭遇が描かれます。 作者の僕自身は、実は承認欲求があまりないのです。もちろん人間である以上、誰かに認めてほしいという思いはありますが、本作の登場人物たちのように、自分を偽ってまで誰かに認められたいという欲求は、僕にはよく分からない感覚でした。だからこそ、彼らのような人物に興味を引かれ、理解したい。それが執筆動機の1つにもなっています。 ──承認欲求と自己肯定感は、背中合わせの関係だとよく言われます。 確かに僕は自己肯定感が比較的高く、「俺が俺を