こないだ、ぼくの訳書のジョンソン『創発』という本が出た。従来型の、トップダウンによる秩序形成に対して、ボトムアップの自律的な秩序形成があちこちで見られる。都市でも、脳でもそれが見られて、そしていまやそれがゲームへの応用を通じて応用段階に入り、さらにはグローバル問題も解決するかもしれない、という脳天気な本だ。 いまの嫌みな書き方からもわかる通り、ぼくはこの議論にちっとも感心していないのだ。 基本的な問題は、著者が創発現象の対極にあると見ている、トップダウン型組織というものを完全に誤解しているところにあるのだ。 著者の主張の一つをまとめると「アリの世界はトップダウンだと思われているけど、実は女王アリは個別のアリの動きは知らないからこれは創発型システムで、スターリニズム型全体主義とはまったくちがう」ということだ。。でもねえ。スターリンだって末端の役人が何をするかなんていちいち知らなかったのよ。あ