「またフィズベクか――と、おっしゃらないのですね」 オトマルは、隣で難しい顔をしている主に軽く声をかけた。 「〝また〟というより、〝予想どおり〟だな。何かが起きるならここだろうとは思っていた」 籠手のベルトを締め直し、フェリクスは副官のほうに向き直った。 「侯都からも帝都からも離れ、共和国に近い。何かを起こすには(、、、、、、、、)うってつけだ」 「何かを起こしたい人物がいるかのようですな」 「オトマルもそう思っているのだろう」 「まあ、そうではあるのですが、その首謀者と目的がはっきりとしません」 「私は、はっきりしていると思うが」 「フェリクス様」 オトマルは、あえて主君に厳しい目を向けた。 「何ごとも決めつけることはよくないもの。決定的な証拠がない以上、今のところ単なる予測にしかすぎませぬ」 「わかっている。だが、それを前提に事を進めねば手遅れになりかねん」 「ううむ、それはそうですな