『外へは出るな』 そんなアーシェラの言葉が耳に残りつつも、中規模といえる館のロビーでネリーはひとり、右往左往していた。 外から断続的に響いてくる地鳴りのごとき轟音が、己の体だけでなく魂までも揺さぶりつづける。それらの中に混じる無数の悲鳴が、なぜか刃のように鮮明になってこちらを斬りつけてくる。 それから耳を塞ぎたくて、さっきまでは自室のベッドで布団にくるまっていた。だが、何をしようとその凶器ともいえる音は、無情にもこちらの内側へ入り込んでくる。 ――じっとしているということが、こんなに苦痛だったなんて。 何もできない自分。 何も見えない自分。 ――いや、そうじゃない。 |何もしようとしない自分《、、、、、、、、、、、》。 きっとこんな状況でなかったとしても、自分から進んで何かをしようとすることはなかっただろう。昔からそうだ、仕事や母親の看病を理由に新しいことから逃げつづけてきた。 自分ががん
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