厚い雲が重くたれ込み、やや湿り気を帯びた風が鎧をまとった兵士たちをなぶっていく。 ノイシュタット侯軍の陣では、準備を終えた騎士たちがそれぞれの持ち場で警戒を怠ることなく、主からの指令を待った。 フェリクスは幕舎から出ると、憂鬱な顔で天を仰いだ。 「急に天気が怪しくなってきたな」 「怪しいのが天気だけならいいのですが」 背後に控えるユーグが、わざとらしくため息をついた。 「確かに敵軍は怪しい。相も変わらず暴徒と正規兵が混在しているようだ」 「いえ、ほとんどが正規兵と考えてよいかと。こちらを攪乱するためにあえて庶民の格好をしているのでしょう」 「ご苦労なことだ」 フェリクスはさして興味もない様子であったが、ふと背後の不遜な騎士を振り返った。 「怪しいといえば、敵方だけではないだろう?」 「と言いますと?」 「アーデも十分怪しいと思うがな」 突然のクリティカルな指摘にぎょっとした。 動揺を覆い隠