タグ

ブックマーク / honyakumystery.hatenadiary.org (15)

  • 硬質な謎解きの華麗なスペースオペラ――ヴァンス〈魔王子〉シリーズ(執筆者・三門優祐) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    「ハヤカワ文庫復刊希望のアンケートを募集中です!」 あの、期待に胸躍らせたアンケートから早5ヶ月。来る11月末日には復刊フェアが行われるとのことだが、果たして何が入ったのか。アレかソレか、それともコレか? ハヤカワ文庫のリストを眺めながらそう思いを馳せるうち、どうにも復刊されそうもない、でも決して見逃してはいけない作品のことを思い出しました(と言っているうちに結果が発表されましたが、やはり入らなかったですね……)。そう、ジャック・ヴァンスの名作「魔王子シリーズ」(全五作)です。五冊一気に復刊するのは、それこそ神の御業でもない限り不可能でしょうが。 2013年、96歳という堂々の大往生で亡くなった巨匠中の巨匠、宇宙冒険小説の達人、独特の命名センスと色彩表現で見たこともないものをまるで手にとるように描き出してみせる圧倒的な想像力と描写力の持ち主、ジャック・ヴァンスを知っていますか。彼はSF作家

    pub99
    pub99 2016/02/01
  • 初心者のためのロバート・ゴダード(執筆者・北田絵里子) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    洒落っけのない眼鏡に、もっさりと生やした顎ひげ、愛用感のあるジャケットとチノパン。著者近影で見るゴダード氏は、気さくな史学教授みたいな風貌をしています。実際、ご人はケンブリッジ大学で歴史を学んだわけですが、彼の書く作品には、知性の香りこそすれ、堅苦しさはみじんも感じられません。デビュー作のなかでゴダードは、歴史について主人公にこんなふうに語らせています。 「所詮は、偉かろうが偉くなかろうが人間の話だし、その人間がなにをしたかってことにすぎないんだ。歴史が妙に気取り出したら、肝心な点が落っこちてしまいますよ」 このことばが信条であるかのように、ゴダードは歴史が落っことしたあれこれをすくいあげ、血のかよった物語――それもとびきり上質なミステリー――にしてわたしたちに届けてくれます。史実を題材としない作品においても、人間の行動から生じた波紋を丹念に描くスタンスは変わりません。 1986年のデビ

    初心者のためのロバート・ゴダード(執筆者・北田絵里子) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • ゴシックの地雷原を行く〜クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』(執筆者:ストラングル・成田) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    領主館の花嫁たち 作者: クリスチアナ・ブランド,猪俣美江子出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/01/29メディア: 単行この商品を含むブログ (13件) を見る クリスチアナ・ブランドといえば、海外格ミステリファンにとっては、まさに超一流ブランド。論理性、パズル性重視の女性ミステリ作家といえば、まず筆頭に挙がる存在だ。『緑は危険』や『ジェゼベルの死』、『はなれわざ』などにおける妙技は今でも色褪せないし、短編集『招かれざる客たちのビュッフェ』は想い出しても惚れ惚れしてしまうようなオールタイムベスト級短編集だ。 そのブランドの最後の長編と聴いて胸ときめかせた格ミステリファンは、書カバーにある「ゴシック小説」なる字句をみて手にとるのをためらうかもしれない。しかし、ゴシック小説であることをもって、書をスルーしてしまうのは明らかに損をする。 鋭利なパズラーの書き手だったブラ

    ゴシックの地雷原を行く〜クリスチアナ・ブランド『領主館の花嫁たち』(執筆者:ストラングル・成田) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 初心者のためのカート・ヴォネガット入門(執筆者・YOUCHAN) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    この原稿依頼が来たとき、きっとこれは私が編者を務めている『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』のPRを兼ねてに違いない!と、二つ返事で快諾したところ「おお、それは良いタイミングでしたね」といったお返事が……。偶然だったようです。とはいえ、やはり何らかの引力が働いたに違いありません。何故なら今、アメリカ国では、ヴォネガット再評価の真っ最中だからです。 ヴォネガット没後、未発表短篇集が3冊も発売され(まだまだ出るかも)、元愛人による思い出の記が出版され、デビュー前のヴォネガットが書き残した中篇“Basic Training”が Kindle Single として発売され、とどめは2011年に上梓されたチャールス・J・シールズによる伝記 And so it goes : Kurt Vonnegut, a life 。この伝記、ヴォネガットの遺族から総スカンをらうほどにセンセーショナルな内

    初心者のためのカート・ヴォネガット入門(執筆者・YOUCHAN) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
    pub99
    pub99 2012/07/17
  • 初心者のためのディーン・クーンツ入門(執筆者・瀬名秀明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    ディーン・R・クーンツではありません。彼はもはやバート・レイノルズ似の口髭に禿頭でもありません。クロスジャンル・エンターテインメントの文法を20世紀に創造したこの作家は、ときに劇的な変貌を遂げて、作風を知悉したはずの熱心な読者さえあっといわせてみせます。そうしたおのれの変貌ぶりさえユーモアたっぷりに自己言及してみせるこの作家は、インタビューでもあらゆる質問に絶妙のギャグで切り返す徹底したサービス精神の持ち主。しかし一方でいま彼は、まったく新しいエンターテインメントのかたちを模索しつつあり、それは(信じられないかもしれませんが)G・K・チェスタトンやC・S・ルイスの幻想性を継承する21世紀の宗教文学の様相さえ呈しているのです。 「読めば面白いが後に何も残らない」 「どれを読んでも同じ」 「しょせん『戦慄のシャドウファイア』(扶桑社ミステリー)と『ウォッチャーズ』(文春文庫)だけの作家」 そん

    初心者のためのディーン・クーンツ入門(執筆者・瀬名秀明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
    pub99
    pub99 2010/12/22
  • 殊能将之の選ぶ変態本格ミステリ・ベスト5(執筆者・殊能将之) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    格ミステリー小説の醍醐味はやはり〈密室〉にあるように、格のSM小説にかかせないものは〈鞭〉だろう。――蘭光生『SM博物館』 変態格とは単に変態が登場する格ミステリではなく、格ミステリの醍醐味であるトリックやどんでん返しに変態性が深く関係している作品を指す。したがって、サイコスリラー風味の格ミステリ(アルテ『虎の首』)、変態度は高いが格味が薄い作品(乱歩『盲獣』)は残念ながら稿では扱わない。 ○ジャック・カーリイ『百番目の男』(文春文庫) 百番目の男 (文春文庫) 作者: ジャックカーリイ,Jack Kerley,三角和代出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/04/08メディア: 文庫 クリック: 23回この商品を含むブログ (61件) を見る 良くも悪くも処女作で、文章は生硬、プロットはぎくしゃくし、達者とはいいがたい。そんな若書きが日での評価を決定づけたのは、

    殊能将之の選ぶ変態本格ミステリ・ベスト5(執筆者・殊能将之) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 初心者のためのリリアン・J・ブラウン〜シャム猫ココ・シリーズの新作は?〜(執筆者・羽田詩津子) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    ココ・シリーズファンで、検索ワードによってこのHPにたどり着いた方、申し訳ありません。まだ新作は出ていないんです。今後いつ出版されるかの見通しも立っておりません。でも、作品ガイドなので、いちおう最後まで読んでくださいね。 「訳者が勝手につづるココ・シリーズ続編」なども、一人ひそかに考えているんですが、アイディアなどありましたら、ぜひご連絡くださいませ。 というわけで、長編二十九冊という長寿シリーズも、ただ今、休止中である。実に残念。 このシリーズがここまで長くファンに愛されたのは、ココとヤムヤムというの魅力のみならず、主人公のクィラランをはじめとする登場人物の魅力がおおいに貢献していると思う。ココやヤムヤムに翻弄される大男のクィラランの姿ににやりとさせられ、読んだあとに温かい気持ちになれる、ほのぼのした味わいのシリーズなのである。 おまけに、グルメファン垂涎のおいしいお料理がたくさん登場

    初心者のためのリリアン・J・ブラウン〜シャム猫ココ・シリーズの新作は?〜(執筆者・羽田詩津子) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 初心者のためのマイクル・コナリー入門その1(執筆者:古沢嘉通) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    〈序〉 もしもあなたが国産、海外を問わず、ミステリ系の娯楽小説が好きな人で、なおかつコナリーを一度も読んだことがないなら、あなたは幸運だ。 最新刊、2010年4月刊行の『エコー・パーク』まで、17冊の邦訳長篇があなたを待っている。そのほぼすべてが水準以上、いや、年間ベストテン・クラスの作品なのだから、あなたの期待はまず裏切られることがないだろう。毎日、一作ずつ読んでいっても、半月以上は、豊かな時間を過ごせるという寸法だ。 ただしご用心。デビュー作『ナイトホークス』(1992)が発表年とおなじ年に邦訳されて以来、18年かけて積み上げられてきた作品を一気呵成に読んでしまうと、「コナリー切れ」の強烈な禁断症状に襲われるかもしれない。現に、年に一冊ペースの邦訳を待ちきれずに原書に手を出してしまった、そういうコナリー中毒患者が何人もいる。 また、ここだけの話だが、あなたには日にいるコナリー・ファン

    初心者のためのマイクル・コナリー入門その1(執筆者:古沢嘉通) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • ミステリーとホラーの狭間で・三津田信三さんの巻 第1回(構成・杉江松恋) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    お待たせしました。2010年最初の「週末招待席」を今週から六回にわたってお送りしていきます。第二回のゲストは、先月末に刊行された『水魑の如き沈むもの』が大好評の三津田信三さん。ご存じのとおり、ホラーの雰囲気と格ミステリーの謎解きを融合させた、新しい境地を拓きつつある作家さんです。その三津田さんが、筋金入りのミステリー読みだった時期があるとか。今回はさっそくその辺からお話をうかがってみました。 水魑の如き沈むもの (ミステリー・リーグ) 作者: 三津田信三出版社/メーカー: 原書房発売日: 2009/12/07メディア: 単行購入: 6人 クリック: 91回この商品を含むブログ (52件) を見る ――今回は企画にご協力をいただき、ありがとうございます。聞けば、正月気分返上で年末年始もお仕事をされていたとか。そんなときに当に申し訳ありません。 三津田 いえいえ。翻訳ミステリー振興のため

    ミステリーとホラーの狭間で・三津田信三さんの巻 第1回(構成・杉江松恋) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 問題提起・ミレニアム三部作は本当に傑作なのか? その2(執筆者・酒井貞道) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    (承前) 以上のように構成だけでも十分やばいのに、ミレニアム三部作はキャラクター造形でもやらかしてしまっている。 三部作に統一感は希薄だが、実は一つだけ、全体を結合し得る要素がある。それが主人公リスベット・サランデルである。彼女は三部作全体のストーリーとテーマに深く関与し、作品の中心そのものと化している。読者の方もこれを敏感に感じ取っているし、書を賞賛する書評家も多くの場合サランデルに魅入られているようだ。 しかし、この人物の設定はあまりにも嘘臭い。以下、彼女の特徴を並べよう。 スーパーハッカーである にもかかわらず、荒事も得意な行動派(というか不死身)である ツンが非常に強いツンデレ 女性迫害に抗う誇り高き人物 にもかかわらず、日で言う制限行為能力者(旧・禁治産者)である その出自で、冷戦期のノルディック・バランスの歪みを一身で体現する こうして並べてみるとわかりやすいが、あまりにや

    問題提起・ミレニアム三部作は本当に傑作なのか? その2(執筆者・酒井貞道) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 問題提起・ミレニアム三部作は本当に傑作なのか? その1(執筆者・酒井貞道) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    スティーグ・ラーソンのミレニアム三部作は、多くのプロの書評家が絶賛し、web上で見かけるアマチュアのレビューも大半が肯定的だ。 このブログでも状況は同じである。北上次郎氏いわく、今年の翻訳ミステリは、スティーグ・ラーソンのミレニアム三部作で決まりらしい。「2009年、私のベスト10暫定版」で登場した評論家9名中、実に6名がこの三部作の名前を挙げたのだ(しかも小山正氏も、実質的にはミレニアム三部作を年間ベストと断じている)。 『ミステリが読みたい! 2010年版』では総合1位、『文春ミステリ・ベスト』でも見事1位を獲得。この分では『このミステリーがすごい! 2010年版』で高順位に付けるのもほぼ確実である。翻訳ミステリー大賞の一次投票でも、確実に名前が挙がるだろう。 しかし当にそこまで素晴らしい作品だろうか? 個人的には重大な疑問が二点ある。一つは構成上の問題、もう一つはキャラクター造形で

    問題提起・ミレニアム三部作は本当に傑作なのか? その1(執筆者・酒井貞道) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 会心の訳文・第三回(執筆者・横山啓明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    『著者略歴』ジョゼフ・コラビント(ハヤカワ・ミステリ文庫) 著者略歴 (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: ジョンコラピント,John Colapinto,横山啓明出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/11/01メディア: 文庫この商品を含むブログ (12件) を見る 翻訳をしていると、かんたんな文章につっかかってしまうことがよくあります。考え抜いたすえ、これだ! という日語がふと浮かんでくる。苦しくもあり楽しくもある瞬間。翻訳作業というのはこれの連続でしょう。現に先ほど仕事をしているときも、おおっ! これだこれだ、とひとり悦に入っていました。どなたか翻訳しているわたしの姿を盗み見たら、頭をかきむしり、ぽかぽか叩き、それから妙な笑みを浮かべ、小躍りしている姿にきっと引いてしまうことでしょう。だから、というわけでもないのですが、たとえ家族でもまわりに人がいると翻訳作業ができません。

    会心の訳文・第三回(執筆者・横山啓明) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
    pub99
    pub99 2009/11/09
  • 初心者のためのスティーヴン・キング(執筆者・白石朗) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    ここでいう初心者とは、サイトをごらんになるほど読書好きなのに、なぜかキング作品にふれたことのない方や、そびえるキング山脈を見あげてボリュームに圧倒され、手を伸ばさずにいた幸運な方々のことです。そんな方々にキング作品を薦めるのは、ある意味でとびきりの毒を処方するようなもの。ですからここでは、初心者のあなたにあえておすすめしないキング作品を三作品だけ選びました。 たとえば『ミザリー』。キャシー・ベイツ主演の映画で物語のアウトラインはご存じでしょうし、キング作品のなかでは手ごろな一冊なので、うっかり手にとる方がいるかもしれません。熱狂的ファンの中年女性の手で冬山の一軒家に幽閉され、新作執筆を迫られた作家が体験する想像を絶する体験も、映画館やテレビで映像を見ているだけなら、作家の苦しみや痛みに同情しつつ鑑賞しているだけです。あのとびきり「痛い」シーンで一瞬びくんと飛びあがっても、すぐ映画館の座

    初心者のためのスティーヴン・キング(執筆者・白石朗) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 会心の訳文・第二回(執筆者・加賀山卓朗) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    『運命の日』デニス・ルヘイン(早川書房) 運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ) 作者: デニス・ルヘイン,加賀山卓朗出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/08/22メディア: 単行購入: 1人 クリック: 37回この商品を含むブログ (25件) を見る運命の日 下 (ハヤカワ・ノヴェルズ) 作者: デニス・ルヘイン,加賀山卓朗出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/08/22メディア: 単行購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (22件) を見る He could feel grass underfoot, the smell of a field in late August, the scent of leather and dirt and sweat, see the runner trying to take home, take home

    会心の訳文・第二回(執筆者・加賀山卓朗) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 会心の訳文・第一回(執筆者・越前敏弥) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート

    『氷の闇を越えて』 スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ・ミステリ文庫 警察官のアレックス・マクナイトは、相棒とともにパトロールをしていたとき、異常者に銃で乱射される。相棒は命を落とし、アレックスも瀕死の重傷を負って退職する。それから14年たったいまも、アレックスの胸には摘出できなかった銃弾が残っている。心の傷は劣らず深い。それが、あるとき思いがけないことから私立探偵になり、事件を解決する過程で少しずつ自己再生していく。そんな小説だ。 この作品の書き出しは、こんなふうになっている。 There is a bullet in my chest. どんな訳者でも、冒頭の一文に向かうときはかなり意気ごむものだろう。その作品、そのシリーズ、ときにはその作家の将来を決定づける可能性さえあるからだ。この作品を訳したときも、あれこれ考えた。数十の訳文が脳裏に浮かび、消えていった。そして、空が白んできたころ、

    会心の訳文・第一回(執筆者・越前敏弥) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
  • 1