ある夏の暑い日、ぼくはたった一つのフレーズだけを抱きしめて、自転車で名古屋中のCD屋を探し回っていた。 正確な時期は覚えていないのだが、多分ぼくは小学生高学年くらいだったのだと思う。 まだ中学には入っていなかった筈だ。 となると「名古屋中のCD屋」というのはもちろん誇張で、実際には東山線沿線の、しかも今池から藤が丘くらいまでのめぼしいCD屋全部、というくらいが関の山だったろう。 けれど本人の意識的には、それこそ名古屋中の店を駆け回っているような気分だった。 子どもの記憶というのはいい加減で、けれど部分的には妙に鮮明で、ふとした拍子に訳が分からない程の存在感とセットで記憶の断片が浮かび上がってくることがある。 その時浮かび上がっていたのは、「ずっと昔に聞いた音楽の断片」だった。 一度ちょっと聴いただけの曲のフレーズが、妙に耳に残ることはあるだろうか? ぼくには昔からその傾向があって、小さいこ